FC2ブログ

骨の記憶 七三一殺人事件 虚妄の栄光とウイルス兵器

著者:福原加壽子



戦争孤児として育ったフリーライター・柏原紘一。還暦も近くなった1989年、旧陸軍軍医学校跡地から大量の人骨が発見されたことから、彼は731部隊についての調査を開始する。そして、それは、731部隊と共に満州で看護婦をし、行方不明となってしまった紘一の姉の行方についてを探る調査でもあった……
著者のあとがきによれば、本作を執筆する契機となったのは作中でも出てくる89年の旧陸軍軍医学校跡地で発見された大量の人骨であり、そういうものを元に戦争の愚というようなものを描きたい、という思いがあった、という。
個人的に、思想信条の是非についてはあまり語りたくない、という想いを持っている。
なんて書くと、逆に、お前はどういう思想なんだ、と問われそうな気がするのだけど、自分自身は、正直なところ、この辺りについてよくわからない部分が多いので、何とも言えない、としか言えない。本作の中心と言える731部隊について、本作を読みながらWEBで調べた中では、色々な噂などがありつつ、しかし、真偽がはっきりしない、くらいの状態だろうか。その中で、本作は731部隊が極めて非人道的な人体実験などをしていた、というのが前提になっている。
この評価は分かれると思う。そもそも、資料そのものが少ない、というのがあるわけだし。ただ、「火のないところに煙は立たない」じゃないけど、全くそういうことがなかった、とは思っていない、というのが正直なところ。そして、その上で、その関係者が大手製薬会社の設立者になったりとか、政財界に関係しているのは確か。その辺りを用いての話としての魅力はある。
ただ……
私が本作を読んだのは、「ミステリ小説」である、という部分が大きい。そして、「ミステリ小説」、いや、「娯楽小説」として評価をするならば、厳しい評価をせざるを無い、という風に思う。
というのも、ミステリ小説、娯楽小説としては、決して出来の良い作品と言えないから。
物語は、冒頭で、現代(90年代前半)、男の水死体が発見された様を描く。ところが、そこから始まるのは、主人公である紘一の幼少期からの物語。そして、一気に時代が飛んで89年の人骨発見へ。そこから、紘一の取材が始まり、関係者のインタビューとか、そういうものが綴られいく。そして、プロローグで綴られた事件が起きるのは、物語が後半、というか、終盤近くなってから。しかも、そこまでは基本的に紘一視点だった物語が、突如、事件を追う刑事視点と紘一視点に変更。終盤、ポッと出の刑事視点になられても、と言う感じだし、読者からすれば知っていることを重複して読まされる部分も多い。しかも、その殺人の真相、決着のさせ方もすごく雑。また、序盤の紘一の生い立ちとか、物語に殆ど関係がないような……。そういう点で小説としての完成度は低い、と言わざるを得ない。
あとがきによると、731部隊の非道。戦争というものの愚かさを描きたかった、というのが執筆の理由らしい。それを否定する気はない。ただ、ミステリ小説としての体裁をとる以上、そのジャンルの作品としては、あまり出来が良いと言えないと思う。

No.5738

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

スポンサーサイト



COMMENT 0