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伽羅の橋

著者:叶紙器



1994年、介護老人保健施設に転所してきた認知症と精神障害を抱えた老女・安土マサヲ。彼女は、終戦間近の大阪で夫と息子を殺害した、とされている。そんな人間を受け入れるべきではない、という議論が持ち上がる中、介護士の四条典座(しじょうのりこ)は、マサヲと夫、子供たちの仲睦まじい写真を発見する。マサヲが殺人を犯したとは思えない典座は、彼女の無罪を証明すべく、彼女の過去を調べることにして……
第2回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
最近、読む作家が同じ面々ばかりだな~、ということもあり、上の新人賞の歴代受賞作を追いかけてみることにした次第。その最初に、何となく選んだ作品なのだけど……いきなり文庫で600頁ほどという大ボリュームの作品になってしまった。
なんか、Amazonのレビューを見ると、物凄く酷評されているのだけど、正直、なんでこんなに低評価なの? という感じ。いや、面白かった。
物語は、かつて、夫と子供を殺害した、とされている女性・マサヲについて調べる話。典座がマサヲは冤罪なのではないか、と思ったきっかけは、彼女のアルバムにあった夫らとの写真。事件の直前に写されたそれは、仲睦まじいもので決して、殺し合いをするようなそんな雰囲気ではなかった。そして、唯一、生き残ったマサヲの三男は母を「アレ」と呼び、常に憎々しく彼女のことを語る。そんな息子に対する反発心……
マサヲが夫らを殺害した、とされる時間。マサヲは工場で勤務しており、夫らがいた自宅とは離れたところにいた。しかも、大阪の街は空襲による火災で近づくには大きく迂回する必要があった。しかし、実際に、自宅でマサヲは保護されており、どうやって移動したのか? という問題が生じる。それをどう解きほぐしていくのか? 大阪の街についての研究をするため、当時を知る人々を訪ね歩き、さらに、図書館などを回って当時の地理、事件などを調べる。600頁あまりのうち、3分の2近くの分量をそんな情報収集に費やしていく。地味な展開と言えばそうなのだが、一つ一つ、情報を仕入れ、その中で「こうすれば良いのではないか?」「こう考えられるのではないか?」と仮説を組み立てながら進んでいく流れは十分に面白い。
そして、その中で、典座自身の成長というのも盛り込まれている。介護士、ではあるが、人と話をしたりするのが苦手で、しかも、会話なども決してうまくない典座。そんな彼女だけど、マサヲの冤罪を晴らした、という思いから苦手な聞き込みなどをし、その中で少しずつ自信をつけていく。一方で、マサヲもまた、当初とは違った、生き生きとした表情へと生まれ変わっていく。そんな成長の物語としても読ませてくれる。そうして、迎えた1995年1月17日……
関西地方を未曽有の災害が襲ったその日。マサヲの孫は、家出をし失踪。マサヲは、孫を助けるため、一人で出かけてしまう。そんな状況の中で、息子の安否を気遣うマサヲの息子の前で、典座は、その真実を語る……
当初は、まともに会話すらできなかったマサヲが終盤に、っていうのは出来すぎな気はする。けれども、典座がたどり着いた戦時の事実。その中で、マサヲが失ってしまった大切なモノたち。そんな悲劇が再び、大災害の中で起きようとしているとき……。戦時に、マサヲが果たせなかった後悔があったからこそ、と考えれば、納得は出来る。それだけの悲劇であったのだから……
地味かも知れないけれども、丁寧な調査の過程。その中での典座の成長。そして、判明した真相と、それを背景にしたマサヲの行動。それぞれがしっかりとまとまっていて、しっかりとした読みごたえを感じる作品に仕上がっている。

No.5745

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