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裏世界旅行

著者:二宮敦人



毎晩、同じ世界の夢を見る高校生のツキコ。巨大樹を中心に、豊かな緑が広がるそのこには、人間は存在せず、不思議な生物がのんびりと動き回っている。そんな彼女は、現実世界でも友人・ヒナタとの関係にちょっと違和感を感じるように。そんなある日、夢の中に見知らぬ青年が現れて……(『飛ぶ鯨』)
から始まる連作短編形式の物語。
この作品の中では、現実とは違った世界のことを「裏世界」と呼んでいるのだけど、心象心理を描いたような世界、と言えば良いのかな? 荒唐無稽なところはありつつも、現実での悩みとか、そういうものを象徴するような世界ということになっている。
で、粗筋にも書いた1編目。高校3年であるツキコだが、学校の進路調査などについて、何もかけずにいた。何がしたい、というよことはなく、また、父親のように会社員になるのも、母親のように専業主婦になるのも何か「これじゃない」感が。そんな中、友人であり、自分を慕ってくれるヒナタは、パン職人を目指す、ということを告げる。ある意味、自分より下に見ていたヒナタと、自分。どちらが正しいのか?
結構、耳が痛い。自分も高校のとき、そういうの考えていたかな? と思うとね……。大学には進んだけど、これがしたい、じゃなくて、田舎から離れたい、が最大の理由だったりするので余計に。そんなツキコの、自分自身を見返すようになる後半の話が印象に残った。
で、高校を卒業し、大学生になったツキコが、自分の夢に現れた男「小指さん」と、他者の裏世界に出かけるようになって、の2編目『騎士と狼』。
ツキコたちが入り込んだのは、大学生になって付き合い始めたカップルの、男の裏世界。そこでは、騎士が姫を助けるべく狼と戦い、毎回、敗れ去る、というのを繰り返していた。そして、その男は、いつも恋人ともっと近づきたい、と思いつつそれが出来ずにいて……
裏世界でツキコたちが見る、騎士と狼の戦い。確かに騎士は敗れている。けれども、よくよく見るとおかしなところもあって……。これは、難しい話だよな。ある意味、男の行動は、凄く紳士的。けれども、夢の世界で描かれるように、「負けるため」に行動しているんじゃないか、という解釈も可能。それはそうなんだが、でも、人間、そんなもんじゃないのかな? なんていうの、この顛末を見ていると思う。
そして、3編目『果実とプール』。小指さんが見つけてきた男。その男は、いつも同じ時間に同じ場所へ行き、同じ行動をとる、という生活を繰り返していた。そして、入り込んだ裏世界では、ただひたすらにプールで泳ぎ続けていた。しかし、一緒に裏世界に入ったツキコは、なぜか砂漠に降り立って……
物語としては、まとめのエピソード。世界に馴染むことが出来ず、とりあえず、社会で暮らすために、必死に「普通の振舞い」を続ける男。しかし、同じことを繰り返す男に、小指さんはいらだってくる。一方、なぜか砂漠に降り立つツキコ。その意味は……
裏世界というのが、どういう世界なのか? そして、その裏世界に入るとき、必要なものは何なのか? そこを冷静に考えることで生じるひっくり返し。問題が解決した、という上の2編とは違う形なのだけど、謎が一つ解消した、という意味でのスッキリ感がしっかりとある。そして、それまで小指さんが主導だった関係も変化することに。その部分で、物語の最終章にふさわしい話なのかな?
ただ、よくよく考えると、他者の心象風景を見るって、いやらしい趣味よね……とは思う。

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