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焼け跡のユディトへ

著者:川辺純可



敗戦から6年。瀬戸内の軍港都市K市に、生き別れの姉がいるらしい、と訪れた矢代。姉の名前は「シオン」と言い、それらしきは、街の名士である槙紫苑という女性。街の製麺所に厄介になりながら、槙紫苑に近づく矢代だったが、遊女が殺害される、という事件に巻き込まれてしまう。その遺体には、能面がつけられている、という意匠が施されていて……
第6回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞・優秀作。
なるほど、選評での島田荘司氏の言葉に納得した。ただ、謎解き、その中での動機が秀逸なのは事実としても、そこに至るまでの展開もかなり凝っている。
物語の導入は冒頭の通り。矢代が発見した遊女の、奇妙な他殺体。それは、K市でその直前に起きていた教員殺害事件と共通したものがあった。それは、どちらも能面を付けられていた、ということ……。そして、矢代は、槙紫苑の元に通うアメリカ人技師・ディックと共に事件の調査に駆り出されることになる。
能面を付けられた遺体。それだけでも、不可思議なものがあるわけだが、調査をする中で、その被害者は、新古今和歌集に記された「三夕」との見立てと思しきものが。そして、それで考えたとき、次に狙われるのは、槙紫苑その人……。しかし、その事件に関しても、おかしなことになり……。そんな見立て殺人。さらに、次々に浮かんでは消える容疑者……。一応、協力はしているものの、探偵役と言えるディックに何か信を置けない部分が残る。そんな相互不信を伴った中での調査の中、やがて、ディックは事件の謎解きへと繋がっていく。確かに、地味な部分はあるが、しかし、色々な趣向を凝らしており、十分に楽しい。
そして、その謎解きでのアレコレ。そもそもの見立て殺人の真相。それ自体が、実は思わぬものだった。そして、その動機。終戦から時間が経過したとはいえ、世間に残る傷痕。そして当時の価値観。ここまで、何で部隊がここなのか? と思っていたことなどがしっかりと意味を成していく。そして、一つの解決へ繋がった上でのさらなる結末へ……。その中での一人の女性の生きざま……
確かに、謎解き以降の盛り上がりはある。けれども、そこに至るまでもしっかりとしており、そのうえで、ということで、完成度の高い作品と言えるのではないだろうか。

No.5753

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