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君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と不愛想な支配人

著者:山口幸三郎



とある避暑地の林を抜けた湖畔。花々が咲き乱れる場所にあるペンション・レテ。そこにある不思議な部屋に泊ると、消し去りたいという願う記憶だけがあとかたもなく消えるという。寡黙な支配人・愛文、しっかり者の少女・多希、常連の作家・丸川千歳らの前には、ワケありの客が次々と現れて……
という連作短編集。全5編を収録。
と言うわけで、願ったことに関しての記憶を喪う、という部屋を巡り、宿泊客らの人生と、それに関する店の関係者がどういう風に動くのか、というのを主題に置いた話が展開されていく。
1編目『初恋の記憶』は、ある意味ではその在り方を示した話。幼いころからサッカーが大好きだった隆介。小学校の頃から活躍をし、将来はサッカー選手になる、という夢を抱いていた。そんな夢は見事に叶い、プロ選手に。そんな彼は、幼いころから応援してくれた絵梨と結婚をするのだが……。絶頂期からの転落。自らの故障。慣れない海外生活。その中で絵梨の心は壊れてしまい、そんな彼女に……
絵梨のことを愛している。しかし、そんな彼女を壊してしまったのは自分。だからこそ、自分と結婚した記憶を消してほしい……。記憶をなくすことで救われることがある。そして、その失われる記憶は、「願ったことだけ」というのが上手く作用したからこそ、の結末。優しい読後感と、作品の概要をしっかりと示した話なんじゃないかと思う。
ただ、だからと言ってすべてが、というわけではない。3編目『別離の記憶』。愛犬が死んでしまったことに苦しむ多希の友人・結衣。だからこそ、多希は愛文の言いつけを破って結衣をその部屋へ泊めることにする。だが……。1編目とは違う、何の記憶を、とはっきりさせないままの宿泊。愛犬のことは忘れた。だが、その愛犬を通して仲良くなった多希のことまでもが……。
ある出来事が、他のことにもつながっている。だからこそ、その記憶が失われることで、関連した他のことまでもが……。「願ったこと」とは言え、使いかたを誤ると……。その残酷さ、というのが感じられた。
そもそもが、実の父娘である愛文と多希。しかし、多希自身が、その部屋に泊ったことで、愛文を父と認識できなくなってしまった、などの結果になってしまっている。その背景にも……。そんな残酷な部分とでも、上手く、必要なところだけを取り除けば……。このあたりの諸刃の剣と言える部分が印象に残った。終盤は、千歳も絡んでの、愛文と妻の話とかにもなっていくのだけど……そこよりも前半の話が印象的。
ただ、タイトルほど、愛文、不愛想って感じはしなかったな。

No.5762

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