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悪の芽

著者:貫井徳郎



多くの人々が集まったアニメイベントで起こった無差別殺傷事件。事件後、犯人の男は、自らに火をつけ自殺した。事件について、様々な憶測が交差する中、大手銀行員の安達は、犯人の斎木が、自分の小学校時代の同級生だったこと。そして、自分の一言がきっかけとなって起きたイジメにより、その人生が大きく狂ってしまっていたことを知る……
1年半くらいぶりの著者の新作。
物語は、粗筋で書いた安達が、その罪悪感から、その心身に異常をきたし、事件を起こして死んだ斎木がなぜ事件を起こしたのか? 自分が原因なのか? ということを探る物語を中心軸として展開しつつ、その周辺の人々の視点パートを交える、という形で描かれていく。
ある意味では、「普通の人」が当事者になったら、という物語なのかな?
事件を受け、加熱する報道。その中で浮かび上がったのは、犯人は子供時代のイジメをきっかけとして不登校になり、社会的な弱者となってしまった斎木。メディアの報道では、そのイジメによって、社会に対する恨みを募らせて……という論調で語られる。無論、その可能性はある。しかし、過去の斎木との思い出から、それに対する違和感も。そこで、安達は、斎木について調べ始めることに。
安達が、斎木を調べるきっかけとしては、自分が悪いのか? という思い。罪悪感もある。しかし、同時に自己保身もある。だが、少なくとも、事件がきっかけとなり、パニック障害の症状が出始め、少しずつ客観的に物事を見ることが出来るように。妻は、きっかけはどうあれ、最終的には安達のせいではないはず、と言ってくれる。同意は出来る。しかし、完全に納得ができるか、と言われるとまたそうでもない。そして、調べる中で、フリースクールに通い、大学進学は出来たが、通うことが出来ずに……。バイトをはじめ、そこで馴染んでいた、ということ。さらに、そんな斎木は、ある女性と親しくしていた、と言うこともわかってくる。その中で……
物語の大筋としては、そんな感じなのだが、その中でやるせない印象になるのは、その周辺での、他の視点での物語。例えば、安達の言葉に乗っかり、斎木を激しくイジメていた真壁。現在は、父から整備工場を引き継ぎ、子供にも恵まれた。そんな子供が、自分のクラスメイトがイジメられている、と相談してきた。真壁は、自分がかつて、イジメを行う側だったこと。そのことについて反省を子に説く。その意味で、反省はしている、と言える。でも、じゃあ、斎木に対して何かをしたのか、と言えば……。この真壁にしても、決して、根っからの悪人ではないのだろう。でも、それは、斎木にとって何の救いにもなっていない。
他の方の感想を見ていて、「想像力」というワードを目にしたのだけど、確かに、それも一つのテーマなのだと思う。イジメをする側はされる側を想像しないし、事件について、ネットなどで叫ぶ者もまた。真壁は、反省はしても……という部分であるし、逆に安達は、自らが病になり、そこちらへと意識を向けた。また、娘が被害者となった厚子、事件現場に居合わせ、その動画で人気となった壮哉は……。それぞれ、決して悪人とは言えない。しかし、他者の気持ちを想像していなかった……。そして、斎木は……
斎木が、事件を起こした動機。ある意味で、作中で示されるのは安達の想像のみ。確かに辻褄はあう。しかし……それでも……
斎木もまた、ある意味では想像力が足りなかった、と言えるし、また、安達の想像でもスッキリとはしない。安達自身は、一つ、自らに課すものがあったのだが、このモヤモヤ感はずっと残るのも確か。

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