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むすぶと本。 『嵐が丘』を継ぐ者

著者:野村美月



本はいつでも読み手を見守ってくれる。本の声を聴くことが出来る少年・榎木むすぶが、様々な本の声に耳を傾けて……という短編集。
シリーズとしては第3作目。
表題作の『嵐が丘』は、過去の『文学少女』シリーズでも取り扱ったことがあるのだけど、やっぱりシリーズが別、ということもあって、前作とは異なったアプローチの物語。結構、本にまつわる、色々な側面からの切り取り方が印象的。
例えば1編目「『小僧の神様』は神さまに会いたかった」。古書店で、か細い声で泣いている本を見つけたむすぶ。話を聞くと、新刊本として本屋に並んだのだが、万引きをされ、古書店に売られてしまったのだという。その事件の現場となった書店では……
万引き……というか、窃盗。そもそもが、書店の本と言うのは取次などからいわば「貸し出されている」状態で……みたいなシステムというのは、よく聞くけれども、では、その本の気持ちは? 本を読むことではなく、その本を盗んで金儲けに、という人間の存在。そして、そんな状況に絶望する少年と、彼を心配する少年たち。ちゃんと買って、自分の物語を楽しんでほしい。もし、本に心があったのならば、そういう気持ちもあるんじゃないか、と感じる。
3編目の表題作。本に「罹患した」のではないか、という悠斗の妹・蛍。その様子を調べるために、むすぶは、蛍のことを知るために、本たちの言葉に耳を傾けるけれども……。人と違っている。そんな自分はおかしいのではないか? そんな悩み。その中で共感したのは、『嵐が丘』のヒースグリフ。そんな悩みに対し、むすぶが語るのは……。何が変なのか? しかし、そもそも違っていて当たり前。何が大切なのか? 優しいまとめ方が印象的。
個人的に、結構、印象的なのは4編目『すべてはモテるためである』。感想では飛ばしてしまった2編目で、妻科さんに言い寄っていたサッカー部のエース・赤星。そんな彼が落とした本は……。まず、このレーベルで、この本が取り扱われる、と言うのが意外。今でこそ、格好良い、と言われる赤星。しかし、中学生時代は……。そこまで、妻科さんを巡ってむすぶと争うような形だった赤星が一気に気弱になっていく様が楽しい。そして、言葉遣いは美少女なのに、言葉はおっさん、という本自体も。
今回は、結構、むすぶが、少年、男と絡む話が多く、そこにも嫉妬する夜長姫。いや、いくらなんでも妄想が捗りすぎでしょ、って場面も。
そんな二人(?)の出会いが5編目で描かれてもいるわけだけど……、この辺りの関係性。表題作の「私はおかしいのでは?」と言うのに、見事なカウンターになっているのはたしか。

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