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十の輪をくぐる

著者:辻堂ゆめ



スポーツ用具ショップで働く泰介は、認知症の母の介護をしながら、妻、そして、バレーボール選手として頭角を現してきた高校生の娘・萌香と共に暮らしていた。そんなる日、母・万津子がテレビの五輪特集を見ながら「私は……東洋の魔女」と呟くのを目にする。そして、福岡出身の母が、なぜ、東京に出てきたのか? 母子の過去がどうなのか、ということを全く知らないことに気付く……
物語は、そんな泰介が、母の過去について調べようとする現代パートと、51年前、まだ若き日の母・万津子の日々を描く過去パートで綴られる。
で、正直なところ、現代パートは、ちょっと読んでいてイラっと来るところある。母親の過去を何も知らなかった。また、日本代表にも召集されようとしている娘を誇りに思いつつも、実業団に行くよりも、大学へ行ってほしい、という思いを抱いている。何よりも、自分自身がバレーボール選手として挫折した経験が後を引いている。ここまでは、わかるのだけど、母親の介護をしている、と言いつつ、全て妻にやらせる。(鬱陶しいのは確かだけど)仕事を忘れたとか、そういうのを反省するどころか、半ば逆切れする。ちゃんと、その辺りの説明は終盤にされるのだけど、そこまでは、読んでいて、あまり気持ちの良いものとは言えなかった。
逆に、過去パートの方は印象的。集団就職で、故郷を離れ、紡績工場で寮生活をする万津子。同じくらいの年齢の同僚たちとの日々。その中で、一番楽しいのは、バレーボールをしているとき。そんなある日、故郷から見合いをしないか、という連絡が。大卒で、炭鉱会社の社員という相手。幸せな結婚生活を夢見た万津子だったが……
そして、生まれた泰介。しかし、とにかく育てにくく、しかも、気に食わねば暴力も振るうという息子。夫の死により、実家へ戻った万津子だったが、母はそんな泰介を嫌い、実の娘である万津子にも辛く当たる。そんなある時、事件が起こり……
現在だって、そこまで知られている、とは言い難い泰介の生まれ持ったもの。まして、50年以上前の出来事。妻は、夫を立ててこそ、というのが当然の価値観の時代。その中での万津子の絶望感しかない日々。そんな中で、ようやく気付いた泰介との絆。そして、泰介自身も、母子の過去を探る中で、自分と言う存在について知っていくことに。
終盤の、現代パートの泰介がいきなり綺麗になりすぎ、という気がしないではない。ないのだけど、過去パートの、万津子の苦悩。そんな中で見えた光明と、曲がりなりにも、一人の真っ当な社会人に泰介を育て上げた意志の強さ。そこが非常に美しかった。

No.5779

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