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月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言

著者:倉知淳



30歳を過ぎても、高校生のような年齢不詳の小柄な男・猫丸。興味があることには、どんどん首を突っ込む。そんな猫丸先輩が、出会った謎を推理する短編集。全5編を収録。
猫丸先輩を中心とした短編集としては、実に15年ぶりの刊行らしい。ただ、短編集の1編に猫丸先輩が登場、みたいな短編集は過去にあったので、そこまで久々、という感じもなかったかな? そして、タイトルに「妄言」とあるように、謎解き、というよりも、「こういう可能性もあるんじゃない?」と言うのを示して、謎に直面した主人公をおちょくるような話が多いように思う。
1編目『ねこちゃんパズル』。出版社の編集者、八木沢は、ある日、看板の下につけられたメモを見つける。そこには、意味不明な文字の羅列が。それに気づき、注意をしていると、一人の外国人男性がそれを回収しているのを見つける。さらに、その男は、交通量調査員や、測量士と言った人々と何かを話している様子を見かける。一体、彼は何者なのか?
これなんか、典型例だよな、と言う感じがする。自分の説明があまり上手くないこともあって、事件のあらましだけをみると、だから何? という感じになる。でも、その暗号の謎。そして、タイトルにもあるパズルと、立て板に水で話を進める猫丸先輩の話術に、すっかり誘導されて……。一応、結論っぽいものは出ているけど、解明したわけじゃないしなぁ……
2編目『恐怖の一枚』。オカルト投稿誌の編集部に届いた一枚写真。それは、山中でおじさんが映っている、というもの。シミュラクラ現象とか、そういうものでもないそれのどこが恐怖の写真なのだ? と訝しく思う編集者の藤田。しかし、猫丸は、なんておぞましいものだ、と言い出して……
何の変哲もない写真。しかし、その構図、ちょっとした部分から話を広げていく様は圧巻。勿論、これもまた想像にすぎないし、多分、猫丸がおちょくっているだけなのだろう、と言う風に思う。思うのだけど、藤田の行ったちょっとした不正とか、そういうものも絡んで「もし、そうだったら……」と言うのを想像すると怖い、というのも確か。
物語の締めとなる6編目の表題作。庭いじりが好きだった母を亡くしたばかりのバツイチ独身男・克也。そんな母が花を植えていた庭に、なぜか侵入者が……。首をひねっている彼の前に現れた猫丸は……
この作品集。どちらかと言うと、猫丸が主人公をおちょくって、という話が多いだけに、この話だけはすっきりと謎が解消された、という感じ。公の空間と、私の空間。その両者を隔てるものと、それを混同させるもの。そういう心理的な要素から、克也の家の庭に侵入者が入ってくる理由が明快に。そこまでのエピソードが、猫丸の意地の悪さ、みたいなものを感じさせるものがあるだけに、このエピソードの綺麗さ、優しさみたいなものが印象に残った。
……ところで、この作品の年代設定っていつくらいなのだろう? 猫丸先輩、パソコンとか、そういうもの全くダメみたいな感じだし……

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