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それでも医者は、甦る 研修医志葉一樹の手術カルテ

著者:午鳥志季



大学を卒業し、研修医となった志葉。過酷な労働環境に辟易としている彼は、難病で入院中の女子高生・遥の自殺を止めたことで彼女と打ち解ける。そして、彼女の手術のその日、彼女は何故か不可解な死を遂げてしまう。衝撃に打ち震える志葉。しかし、気が付くと、志葉は、あるかの出術前日にタイムスリップしていて……
タイムスリップもの……なんだけど、結構、社会問題みたいなものを孕んでいる、という独特の作品。
序盤は、冒頭に書いたように過酷な労働環境の中にいる志葉の様子が描かれる。ブラック企業なんて言葉があるけど、まさに、そんな状況。いや、それ以上に過酷そのものな日々。朝早くから、夜遅くまで働かされ、しかも、緊急の手術やら何やらがあり、時に患者からのクレームなんていうものも。そんな中で感じる医療体制の限界とでも言うべきもの。そんなときに、遥と打ち解け、そして、手術となるのだが……
順調に進んでいたかのように思われる手術。しかし、突如、容態は悪化し、そのまま……。そして、気づけば志葉は手術前日へ……。今度こそ、と思うのだが、また再び……
難しい手術ではある。しかし、手術を担当するのは、名医と呼ばれる医師・神崎。手術の手順にもミスはなく、なぜそうなるのかわからない。ならば、手術を延期する、というのはどうか? この病院ではなくて、他の病院に転院させれば……。様々な手を試みるが、しかし、ことごとく失敗。そして、そのたびに繰り返されるタイムスリップ。遥の死を回避しなければならない。おそらく、タイムスリップを止める、というのはそれを果たすことなのだろう。しかし、何度繰り返しても必ず訪れる遥の死。この辺りは、完全にSF作品のそれと言える。
ただ、その中でも、やはり根底に医療現場の疲弊とか、そういうものが描かれていく。例えば、手術を担当する医師・神崎。手術の腕は確かだが、気難しく、しかも、研修医などにも厳しい男。しかし、ふとタイムスリップした中で語られる彼の家庭の話。自分の仕事に誇りを持っているが、しかし、仕事に追われ、家庭は崩壊。このような環境で医療を守ることなんてできるのであろうか? という問い。
そして、その遥が術中に、不可解な死を遂げた理由と、その背景……
医療関係者をこれでもか、と酷使する社会と、その中でもミスなどは許さない、という人々の感情。それを原因となった人物が明らかに間違っているのは事実。しかし、その一方で、そこまで追い詰める制度には問題がないのか? という問いかけ。この辺り、久坂部羊氏の作品などでも出てくるテーマではあるのだけど、SF的な形で、あくまでもエンタメ作品として楽しませながらも、問題提起をしてくる、という構成に唸らされた。

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