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ナキメサマ

著者:阿泉来堂



「倉坂尚人さん、でしょ?」 突如、自分の前に訪れた女は、高校時代の恋人である小夜子のルームメイトだという。そして、その小夜子は、田舎へ帰省したきり、音信不通になってしまった。僕は、小夜子のルームメイト・弥生と共に、小夜子の故郷である稲守村へと向かう。そこで聞かされたのは、小夜子が村の儀式の巫女に選ばれたこと。そして、儀式が終わるまでは会うことが出来ない、ということだった。僕は、しばらく村に滞在することにするのだが……
第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞・読者賞受賞作。
2019年に横溝正史ミステリー大賞と、日本ホラー小説大賞が合併して現在の「横溝正史ミステリー&ホラー小説大賞」になったわけだけど、なんか、その双方の要素を上手くミックスしたような作品だな、というのを読みながら思った。
物語の導入は冒頭の通り。高校時代に恋人同士だったが、あることで別れることになった相手・小夜子。しかし、彼女への想いは消えず、気になっていた。そんなときに知った、小夜子が音信不通という話。復縁の可能性も。そんな思いを抱えながら、彼女の故郷へ……。歓迎はされているものの、何か隠している様子のある村の人々。そして、夜、目にしてしまった異様な人影。儀式の取材に来た、というオカルト雑誌の記者・佐沼、オカルト作家の那々木と知り合うのだが、異常な殺人が発生して……
形としては、ホラー小説そのもの。村にいると思しき異形の存在。村の人々がひた隠しにしている儀式の真相。異形の存在、というのが前提になって進む物語。何かわからないから怖い、というわけではないものの、この形式は、異形の存在と戦うホラー作品の形そのもの、という風に言えると思う。ただ、その上で、那々木らが語る異形の存在は何なのか、という考察。また、その異形の存在をどう扱うべきなのか……という対峙の方法なんて言う部分は、論理性の上に成り立っており、ミステリー作品の形であると言える。そういう意味で、ハイブリッドな作品と言える。
そして、そのハイブリッドという意味では、ひっくり返し、と言う部分についても。異形の存在との戦いの中でまず一つが明らかになり、さらに、解決したと思ったところでのもう一つのひっくり返し。トリックとしては、シンプルではあるのだけど、二度のひっくり返しと、その結果の、真相が明らかになったことでの後味の悪さ、というのは良いアクセントになっているな、というのを素直に思う。曖昧じゃないからこそ、の読後感だろう。
と言うところまでを書いた上で、自分が一番、印象に残ったところ。それは、終盤、異形と対峙することになったときに那々木が言ったこと。
儀式により、怨霊を慰めて……というが、実際には、それを騙しているだけ。決して思いは成就していないし、儀式を重ねることで、さらに恨みを強くしているのではないか? と言う言葉。こういった作品、さらに言えば、ゲームとかでもある儀式を成功させることで、怨霊を鎮める、というのは定番だけど、確かにそういう見方もできるよな、というのは目から鱗。そこは、物語の主軸ではないかもしれない。でも、その部分が妙に印象に残った。

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Tag:阿泉来堂ナキメサマ感想小説

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