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冷たい手

著者:水生大海



アパレルショップの契約社員である朱里は、人に言えないある過去を隠して暮らしていた。そんな朱里に、学生時代の友人であり、同じ過去を抱える典子が婚約したことを伝えてきた。相手は、アパレル業界で注目を浴びる有名ブランドの社長。だが、婚約直後、その社長の元恋人であるタレントが、典子に恋人を奪われたと騒ぎ立てる。そして、そんな騒動の中、不可解な死を遂げてしまう……
以前、『消えない夏に僕らはいる』の感想で、事件の後始末というのは、難しいものだな、という文章を書いたことがある。勿論、本作は内容とかは全くの別物なのだけど、「事件の後始末」という部分では共通しているかな? と。
アパレルショップで働く朱里。しかし、生活は苦しく、また、売り上げという点でもイマイチでうだつの上がらない日々。そんな中で起きた典子の婚約と騒動と、不可解な死。社長、タレントと警察は捜査の対象とするが、その中で、典子が学生時代から唯一、つながりのある朱里にも注意を向けていく。勿論、自分は典子を殺していない。しかし、自分の過去を知られるわけにはいかない。そんな思いの中で、朱里は過去について沈黙を重ねる。だが、そんな過去を警察が見逃すはずはなく、警察側の心象は悪くなっていく……
朱里、そして、典子がかつて経験した事件。その事件において、二人は完全なる被害者でしかない。だが、幼い身には、いや、大人であっても過酷すぎるその状況で、体験したことは朱里の心の傷として今なお、その精神に居残っている。さらに、被害者であるのに、事件の性質上、彼女らもまた、その過去を隠し続ける必要がある。この辺り、犯罪被害者のケアとか、周辺の人々の反応とか、そういう法律の枠とはまた違った問題と言うのを突き付けてくる。その部分に、何よりも惹きつけられた。
ただ……
終盤の展開。事件の犯人は一体誰なのか? という部分はちょっと強引じゃないか、という思いが強く残る。終盤に入って、いきなり複雑に絡みあった人間関係が登場。しかも、その中で……というのが出てくるだけに。いや、犯人もまた、過去の事件の被害者であり、ケアされなかった存在ではある。あるのだけど……そうしても唐突な印象になってしまう。そこに、どうにもモヤモヤしてしまった。

No.5803

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Tag:小説感想 水生大海

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