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テスカトリポカ

著者:佐藤究



メキシコの麻薬カルテルのトップであったバルミロ・カサソルは、対立組織との抗争に敗れ、インドネシア・ジャカルタに潜伏していた。そこで、日本人の臓器ブローカーと出会い、二人は新たな臓器ビジネスを成功させるために日本へと向かう……
と言う粗筋だと、バルミロが主人公のノワール作品、クライム作品っぽく見えてしまうな。いや、それで間違ってはいないのだけど、バルミロのほかにも、この物語に関わる人物の視点が次々と描かれ、群像劇的な形で進んでいく。その中で、中心的な立ち位置にいるのがバルミロ、という感じになる。
とにかく、この作品に関わる連中……ロクなのがいねぇ!
先に書いたバルミロもそうなのだけど、そんなバルミロに協力するブローカーの野村。手術を担当する通称・蜘蛛。両者とも、医師ではあるが麻薬中毒となり、双方とも職を追われることに。しかし、野村は金のため、蜘蛛は手術をしたい、という欲求からバルミロへと協力していく。そして、その臓器を探す役割を果たすことになる矢鈴。保育園の職員だったが、そのストレスから薬物に溺れる。そんな中で、虐待されている子供を助けるNPOを名乗るバルミロの組織の一員になっていく。彼女の場合、ある意味では被害者なのだけど、自分の役割に酔い、怪しげな行動から目を背け続ける。
そして、もう一人の主人公と言える少年・コルシ。ヤクザの父と、薬物中毒のメキシコ人の母の間に生まれた。まともな教育を受けず、文字の読み書きすらおぼつかない。しかし、圧倒的な身体能力と、芸術的なセンスを買われ、バルミロに誘われていく。「家族」として……
このバルミロの組織、いや、「家族」というべきもの。それぞれの分野のスペシャリストを集め、圧倒的な暴力性により、対抗する暴力団らとも渡り歩き、その力を付けていく。そんな組織の背景にあるのは、アステカの儀式……
先に書いた圧倒的な暴力、専門性を持つ面々。特に、バルミロが「家族」と呼ぶ面々をつなぎとめるのは、アステカの儀式など、一種の宗教的な価値観に基づいて醸造されていく「狂気」とも言うべきもの。正直なところ、自分はアステカの文明とかそういうものはよくわからない。高校時代は、世界史をやっていて、大学では政治学とかやって、ある程度、歴史とかは学んでいるけど、アステカというと、大航海時代に西欧人によってアステカ帝国は滅ぼされました、みたいな一言で終わっちゃう部分だし。なので、そういう儀式、宗教観はあるのだろうけど、傍から見ていても、バルミロたちが、その文化などを正当に受け継いでいるのか不明。しかも、どんどん過激化していく。過去の作品同様、文章は淡々と描かれているのだけど、淡々と描かれるがゆえにその狂気が伝わってくるように感じた。
そして……
過激化していく思い。だからこそ、そこに違和感を覚える者もあらわれる。それは、儀式などの形。そして何よりも、裏世界の、謂わば利害関係によって集まった者たちの集団でもあったから……。その意味では破綻もまた必然だった……
圧倒的な専門性と暴力による集団の形成。暗躍。破綻……それらの迫力に溢れた作品だった。

No.5806

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Tag:小説感想 佐藤究

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