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三途の川のおらんだ書房 迷える亡者と極楽への本棚

著者:野村美月



三途の川のほとりに佇む「おらんだ書房」。そこでは、艶やかな着物に身を包んだ店主が、人生最後にして、最上の一冊を選んでくれるという。この世に未練を残したまま死亡した人々。そんな人々の望みに店主は……
という連作短編集。全6編を収録。
自分が著者の作品に初めて触れたのは『文学少女』シリーズなのだけど、最近はすっかり「本」を題材にした作品を武器とする作家と言うイメージになってきたなぁ、という印象。そして、今作を読んでいると、結構、わかる、という感じの話が多かったな、という感じに。
第1話。幼いころから本を読むのが大好きで、その本に埋もれて死んでしまった青年・祐介。高学歴で顔もイケメン。しかし、人付き合いが苦手で、とにかく本を読むことが好き。周囲からは残念な奴と言われていた彼は……。うん、人付き合いよりも読書の方が楽しいもん! っていう感覚わかる。そして、そんな彼がおらんだ書房にきての葛藤。買うことが出来る本は1冊だけ。読み返したいものもある。まだまだ読みたい本もある。それなのに……。あと1冊しか。その思いとかに共感したのだけど、店主が渡したのは……いや、ある意味、それ、一番、残酷だよ……
立場を変えての話として面白かったのが第5話。死亡したのは、漫画家の司と、その編集者。司は、人気漫画を連載していたが、あともう少しで完結というところで執筆が出来なくなり10年が経過していた。自分も、「この作品、つづきが読みたい」というものは沢山ある。しかし、そういう思いというのが作者にとっては、大きなプレッシャーに。しかも、ただの作品ではなく、大傑作として人気を博していた作品。ファンからは数多くの手紙が届き、中には何全文字で綴られた考察やら、二次創作やら、エロ同人誌やらが届くことも。そりゃ、描けなくなるわ! しかし、そういう状況から完全に逃げ出したいのか、というと……。自分も、こういう風に感想やらを勝手に書いている人間だけど、そういう立場はどう思われているのか? でも、そもそもが、自分の思ったことを描きたいからこそ、作る側にもなった。そんな葛藤が伝わってくるようだった。
この作品の世界では、死者は、三途の川を渡り、審判を受ける身。おらんだ書房は、そんな三途の川を渡るまでの時間つぶしの手段を渡す場、ともいえる。しかし、三途の川を渡らない、という選択肢もある。物語の語り部・いばらもまた、そんな一人。このあたりの設定は、今後、シリーズ化して描かれるのだろうか?

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Tag:小説感想野村美月

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