著者:平野俊彦

薬科大学教授の大日向の元に入った一報。それは、同じ大学に通う娘・千佳が大学内で首を吊った、というもの。なぜ、娘が自殺を? 悩む大日向だったが、警察からもたらされたのは、娘は何者かに殺害された、というもの。遅々として進展しない娘の殺害事件。業を煮やした大日向は、自ら犯人を突き止めるべく行動を開始する。だが、怪しいと思われる娘の付き合っていた相手は、ミステリー作家を目指している、ということだけ。大日向は、相手を突き止めるべく、ある罠を仕掛けることにするが……
第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
個人的な評価としては、長短、双方を持っている作品だな、ということ。
物語の中心にあるのは2つの密室殺人。大日向の娘・千佳が殺害されたのは、鍵で閉じられた部屋。その鍵は、娘が所持しており、その鍵も娘が借り受けたもの。だからこそ、当初は自殺と思われた。そして、そんな娘を殺害した犯人と思しき相手に問い詰めようとしたところ、別の人間が同じように密室で殺害された。誰もいないはずの部屋で大きな衝撃を受けての圧死。しかも、背中に大きな傷が。こちらも、鍵は被害者が自分で持っている状態で……
長所から言うと、とにかくテンポの良い展開と読みやすい文章。娘の死から始まって、犯人を特定するための罠。その中での二度目の殺人。著者自身が大学教授という経験もあるのだろうが、大学内での研究を巡ってのアレコレとかを交えながら、どんどん読み進めることが出来るリーダビリティの高さは特筆すべき部分だと思う。そして、メインの謎と言える2つ目の密室。正直、これを実際に出来るのか、という疑問はあるのだけど、しかし、奇想天外で、非常に魅力的なトリックである、ということは間違いのないところ。
ただし……での、短所もある。
まずは、犯人を特定するための行動。娘が付き合っていた相手は、ミステリー作家を目指していたらしい、ということで、大日向が取ったのは、出版社を経営する友人の協力を得て、ミステリーの公募新人賞を創設する、というもの。大日向自身が言っているけど、そもそも、それ自体がかなり遠大な計画と言わざるを得ない。そして、その新人賞に、知っている人間が応募して、DNA鑑定の結果、娘の持っていたハーモニカに残っていたものと一致していた、ということで犯人と疑うのだけど……これも、大分、苦しいのでは? 状況証拠はあるけど、そもそも、恋人=犯人、というのも推測に過ぎないわけだし。また、実際に犯人が恋人だった、ということは明かされるのだけど、選評でも指摘されているように、ミステリー作家を目指している人が、首つり自殺と絞殺の際の違いとかを知らないだろうか? 一応、法医学とかに詳しくない私でも、小説とかドラマとかで知っているわけだし……
リーダビリティとか、トリックの独創性など、読ませる力はあるし、面白かったのだけど、気になる箇所も結構あったかな? という感想。
No.5823

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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薬科大学教授の大日向の元に入った一報。それは、同じ大学に通う娘・千佳が大学内で首を吊った、というもの。なぜ、娘が自殺を? 悩む大日向だったが、警察からもたらされたのは、娘は何者かに殺害された、というもの。遅々として進展しない娘の殺害事件。業を煮やした大日向は、自ら犯人を突き止めるべく行動を開始する。だが、怪しいと思われる娘の付き合っていた相手は、ミステリー作家を目指している、ということだけ。大日向は、相手を突き止めるべく、ある罠を仕掛けることにするが……
第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
個人的な評価としては、長短、双方を持っている作品だな、ということ。
物語の中心にあるのは2つの密室殺人。大日向の娘・千佳が殺害されたのは、鍵で閉じられた部屋。その鍵は、娘が所持しており、その鍵も娘が借り受けたもの。だからこそ、当初は自殺と思われた。そして、そんな娘を殺害した犯人と思しき相手に問い詰めようとしたところ、別の人間が同じように密室で殺害された。誰もいないはずの部屋で大きな衝撃を受けての圧死。しかも、背中に大きな傷が。こちらも、鍵は被害者が自分で持っている状態で……
長所から言うと、とにかくテンポの良い展開と読みやすい文章。娘の死から始まって、犯人を特定するための罠。その中での二度目の殺人。著者自身が大学教授という経験もあるのだろうが、大学内での研究を巡ってのアレコレとかを交えながら、どんどん読み進めることが出来るリーダビリティの高さは特筆すべき部分だと思う。そして、メインの謎と言える2つ目の密室。正直、これを実際に出来るのか、という疑問はあるのだけど、しかし、奇想天外で、非常に魅力的なトリックである、ということは間違いのないところ。
ただし……での、短所もある。
まずは、犯人を特定するための行動。娘が付き合っていた相手は、ミステリー作家を目指していたらしい、ということで、大日向が取ったのは、出版社を経営する友人の協力を得て、ミステリーの公募新人賞を創設する、というもの。大日向自身が言っているけど、そもそも、それ自体がかなり遠大な計画と言わざるを得ない。そして、その新人賞に、知っている人間が応募して、DNA鑑定の結果、娘の持っていたハーモニカに残っていたものと一致していた、ということで犯人と疑うのだけど……これも、大分、苦しいのでは? 状況証拠はあるけど、そもそも、恋人=犯人、というのも推測に過ぎないわけだし。また、実際に犯人が恋人だった、ということは明かされるのだけど、選評でも指摘されているように、ミステリー作家を目指している人が、首つり自殺と絞殺の際の違いとかを知らないだろうか? 一応、法医学とかに詳しくない私でも、小説とかドラマとかで知っているわけだし……
リーダビリティとか、トリックの独創性など、読ませる力はあるし、面白かったのだけど、気になる箇所も結構あったかな? という感想。
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