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ヴィクトリアン・ホテル

著者:下村敦史



創立100年を誇る高級ホテル・ヴィクトリアンホテル。そこは、改装のため、歴史に一旦、幕を下ろす。その最後の夜にホテルを訪れた人々。それぞれを待つ運命は……?
ということで、ヴィクトリアン・ホテルの最後の夜に宿泊した人々を描いた群像劇。
大女優と言われた母のプレッシャー。さらに、テレビ番組での発言に批判が集中し、自分の在り方に迷う女優・優美。新人賞を受賞し、ホテルで行われている受賞パーティーに主役として参加することとなった高見。連帯保証人をしたことで、全てを喪い、夫と最後の夜を過ごそうと決めた林志津子。女遊びも、自分を育てる糧だと豪語するテレビプロデューサー・森沢。社会そのものを恨み、バイト先であるコンビニの金を持ち逃げし、現在逃亡中の三木本。そんな彼らが奏でる物語といったところ。
このような書き方なので、当然、ある人物がある人物と出会い、影響を与え……という形で結びついていくのだけど……正直なところ、終盤のひっくり返し、というのはある程度、予想がついた。というか、本作については、あまり緻密、というほど緻密でもなく、読んでいてかなり違和感を感じる部分が多いので何となく予想できてしまう、と言う方が正しいかもしれない。
ただ、その中で綴られるメッセージというか……この作品全体にあるのは、「責任」というテーマじゃないかと思う。
例えば、小説家としてデビューした高見。過激な描写などもあり、そのことについての疑義もある。しかし、フィクションを描くことにおける「責任」とは? 誰も傷つけない表現なんてあるのか? そして、誰かを傷つけるかもしれないが、同時に、それに救われる存在もいる。また、女優である優美は、テレビ番組で披露した「金を少しあげた」というエピソードに対するクレームに悩む。確かに、親切のつもり。しかし、それに対して、「それは詐欺師。成功体験をさせることは、他の被害者を作ることと同じだ」と言う批判。さらに、三木本にとっては、周囲の親切に対しても自分に対する皮肉としかとらえられない。
誰かを傷つける。傷つけない。そんなことに対する責任とは何か? こういうクレームって、昔からあるのだろうけど、ネットとか、はたまたコンプライアンスなどが重視される中、どんどんと大きくなってきたもの。無論、そのことによってよくなったこともある。しかし、同時に息苦しさ、というのを感じるようなケースも増えてきた。この辺り、著者が作家として活動をしてきて思うことと、なんていうのもあるのかもしれない。また、その一方で、林夫妻のようなケースもあって……
仕掛けとか、そういうものは、正直、ちょっと肩透かし気味と感じたところもあるのだけど、その中で議論される責任を巡るアレコレが興味深かった。

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Tag:小説感想下村敦史

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