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蒼海館の殺人

著者:阿津川辰海



先の事件の後、登校してこなくなった「名探偵」の葛城。そんな彼に会うため、田所は友人の三谷と共にY村にある葛城家の屋敷・蒼海館を訪れる。葛城の祖父が亡くなったばかりの蒼海館で、名士揃いの葛城家に歓待される田所だったが、当の葛城には拒絶されてしまう。そして、台風の影響で激しい雨が降り注ぐ中、連続殺人劇が幕を開ける……
『紅蓮館の殺人』の続編となる作品。前作は、「名探偵」として、物事の真実を暴く、と言うことで起こる問題。その中での葛城の挫折……と言う部分が強く印象に残った作品なのだけど、続編となる本作では葛城はそのことを引きずっており、探偵としての活動を拒絶。しかし、その館では亡くなったばかりの前当主の死に対し、殺人だ、という雑誌記者が訪れていた。そして、そんな夜、葛城が最も信頼を寄せている兄が非業の死を遂げる……
とにかく、中盤くらいまで、探偵である葛城は、推理を拒否。そんな状況下で、田所は情報集めに奔走するが、しかし、当然、真実は見えてこない。そのような中での事件について、何かを守るがごとく、一枚岩となって田所ら、外部の人間による事件ではないか? と団結していく葛城家。その背景にあるものは?
事件そのものについても、前当主が殺された、と言う記者と、葛城の従兄弟の少年。同じ状況なのにあり得ない状況の意味するもの。なぜか食器が減っている、という奇妙な出来事。認知症を患っている葛城の祖母の言動……。ちょっとしたことが、全て伏線として機能してヒントになっていく。さらに、それぞれの登場人物たちの行動を、自らの思惑通りに操っていく壮大な、そして、緻密な黒幕の存在。
前作で、葛城が、自分の家族は名士揃いとは言え、その言動は嘘だらけ。だからこそ、そんな家が嫌で……。そんなことが綴られている。確かに、それぞれが嘘をついていたり、とか、そういう面はある。あるのだけど、でも、根っからの悪人なのか? と言えば、そんなことはなく、色々と矛盾などを抱えた部分がありつつも、それぞれが互いのことを大切に考えている。それゆえに発生する嘘。そして、その思いを利用していく黒幕。600頁あまりと、かなりの分量があるのだけど、その分量があるが故の緻密さはお見事の一言。
しかし、当初は推理を拒絶した葛城だけど、そんな彼が目の当たりにする真相はこれまたビターなものなんだよな……
そういう理不尽さ、ほろ苦さと対峙せねばならない、というのも探偵の宿命かも知れないけれども、それでもなぁ……

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Tag:小説感想講談社タイガ阿津川辰海

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