fc2ブログ

犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱

著者:吹井賢



京都の大学で犯罪社会学を教える若き准教授・椥辻霖雨。彼の元にある日、小さな同居人が現れた。椥辻姫子、14歳。不登校児。複雑な事情を抱える彼女は、「死者が見える」という。頭脳明晰ながら変わり者の霖雨と、死者の声を拾うことが出来る少女。奇妙な同居生活の中、近所で一つの自殺が起こる。そして、その町屋では住人が連続死する、と言われていて……
あとがきで、「どんな事件であっても、そこには生きた人間がいる」というのがテーマと書かれているのだけど、まさに、そんな感じな話。
死者の声が聞こえる、という姫子。そんな姫子との同居生活。そんな中で起きた、シングルマザーの自殺。密室状態で起こった事件であり、そこに異常性はない、と判断された。しかし、その部屋では以前にも同様のことが? 現場に向かった霖雨と姫子だったが、そこで姫子は「助けて」という声を聴いたという……
物語は、その部屋の「呪い」とは? ということを調べるため、友人であり、事件の第一発見者である探偵・つぐみや、友人である准らの話を聞いたりして進んでいく。こういうと何だけど、物語の進め方はかなり地味。事件自体も、派手なものか、というと疑問に当たる。そして、その真相もまた……
ただ、そういう事件にしたこと自体が、一つの狙いなのだろう、という感じがする。
そして、その上での、関係者のやりとり。
変わり者だ、と言われる霖雨。しかし、「死者が見える」という姫子の言葉を否定するのではなく、「自分には判断できないが」と言いつつも、それをネガティヴに捉えるわけでもなく、受け入れる。そして、何だかんだと勉強を教えたり、その相談に乗ったり……。一人の人間として姫子を見る姿。さらに、そんな変わり者である霖雨と、そんな霖雨を受け入れる友たち。そんなやりとりと、真相が判明しての想い、というのが……。
勿論、自殺事件の遺族らの想い、とか、そういう部分も大事なのだけど、事件を通して、関係者となっていく霖雨、姫子らの想い、というのをじっくりと描いていった作品だな、と言うのを感じた。

No.5871

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

スポンサーサイト



COMMENT 0