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馬疫

著者:茜灯里



新型コロナウィルスの関連で、2021年に続き、2回連続で東京五輪の開催となった日本。馬術競技用の馬を用意している山梨県・小淵沢で馬インフルエンザが発生。その感染源は、実家の馬術クラブ? そんな噂が流れる中、馬術選手であり、獣医である一ノ瀬駿美は、その感染源を探るのだが……
第24回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
ジャンル分けをするのならば、感染パニックもの、ということになるのかな?
オリンピックを目前に控えた日本。2021年に行われたオリンピックでは、馬術競技のために来日した馬が、熱中症により死亡した、ということが国際的な問題となり、馬術関係者には大きなトラウマとなっている。そして、そんな中で発生した馬インフルエンザ……
馬インフルエンザが、どこで発生したのか? そんなところを巡る問題で、自分の家が輸入して馬ではないか? という疑惑に晒された駿美。しかし、馬の移動などの形跡を調べると、別の乗馬クラブであるように思われる。その一方で、普通の馬インフルエンザとは異なり、感染力は極めて強く、感染した馬は、その熱などにより暴れだす「狂騒型」。そういう情報について、明らかにすることで多少の傷はつくかも知れないが、問題を解決すべき、という駿美だが、過去のトラウマがある馬術関連団体などは腰が重く、隠蔽へと動き出す。だが、そうしているうちに感染はどんどん広がっていき……
著者自身が獣医であり、そして、大学教員である、という言わば専門家。それだけに、専門用語などが多く、多少、読むスピードは落ちた。でも、専門家だけにわかりやすく描いている、というのはよくわかる。
で、そんな専門家が綴る感染拡大に関するアレコレ。単純な理屈で言えば、駿美が主張するように、事実を明らかにして感染を最小限に食い止めるのが最善だ、ということになる。しかし、過去の不祥事によるトラウマがあり、オリンピックを無事に行いたい政府らは及び腰。さらに、利害関係者と言える地元の馬術クラブ側もそれを拒否。そんな状況の中にあって、獣医などの立場にある者もそれぞれの思惑で動いていく。一枚岩になり切れない。そんな中で広がっていく感染。さらに、その最中に明らかになる過去の事例の隠蔽……。科学的な正しさ、政治的な正しさ、経済的な思惑。さらに、個人の思惑。それぞれがごちゃ混ぜになって一進一退を繰り返していく様、というのはリアルで、というか、2021年4月時点での、新型コロナウィルスに関する様々な対応とも重なって見え、非常に読み応えのあるものとなっている。その部分は非常に面白かった。
ただ、その一方で、純粋に物語として考えると、ちょっと色々と詰め込み過ぎかな? と感じる部分も。
主人公の駿美は、獣医として……とあるのだけど、オリンピックを目指していた競技者と言う側面も持っており、その関係で父、そして、姉との間に軋轢を持っている。普通に生活をしていて、そういう関係は当然にあるのだけど、物語を進める上の都合を優先した感じがする。また、そのウィルスを人為的に広めている存在が明らかになるのだけど、その動機とかも何だかな、と言う感じ。何らかのまとめを作らねば、ということなのだろうけど、ちょっと強引な感じがした。
感染パニック。その中での色々な思惑のぶつかり合いは面白かったのだけど、その中での犯罪行為などについては、そこに比べるとちょっと物足りなく感じた。

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