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臨床法医学者・真壁天 秘密基地の首吊り死体

著者:高野結史



医大の法医学教室の助教・真壁天は、人間と接するよりも死体の解剖をしている方が良い、という人間嫌い。しかし、教授から児童虐待の鑑定をする臨床法医学の仕事を押し付けられてしまう。不本意ながらも、その観察眼で様々な親子の問題を発見していく真壁だったが、ある日、彼が虐待をしてきた親が首吊り遺体で発見される。そして、その状況は、彼が小学生時代に目の当たりにしたものと重なって……
第19回『このミス』大賞・隠し玉作品。
まず、読む前に最初に思ったことは「臨床法医学」とは何じゃろ? ってことだったり。
法医学っていうと、死体を解剖して……みたいなもので小説やら何やらでお馴染み。でも、臨床って? っていう感じ。けれども、それも法医学なのだけど、そうではなくて、生きている人間の怪我などの様子から、それがどういう状況で起きたのか、というのを見つけ出し……というものが、臨床法医学だという。臨床法医学で検索すると、実際の医大の臨床法医学についてのサイトとかにもぶつかって、なるほど、というのを感じた。
で、そんな臨床法医学をすることになった真壁。その観察眼で、次々と虐待などを発見していくが、彼が虐待を発見した親が不可解な死を遂げて……というのが、今作の物語。
結構、臨床法医学に関する問題提起とか、そういうのが色々と散りばめられている。遺体を解剖する法医学と同様、そもそもの人が足りない。そして、臨床法医学が主に関わる虐待の問題。生きているなら、被害者は誰にやられたのか言えばよい……と一見して思うけれども、虐待などの場合、親子と言う関係性。さらに、子供であるが故の表現能力の低さなどからそれも出来ない。そんな状況を真壁が見破っていく序盤の展開がまず面白かった。
そして、そんな中での首吊り遺体。次々と発見される遺体は、真壁が虐待をしてきた親。当然、警察は真壁に対して注目をし、同時に大学も彼の関与について疑念を抱きだす。教員とは言え、身分の不安定な助教という立場。その後の生活なども危うい。その一方で、その遺体の置かれた状況は、子供時代に真壁が見た光景にそっくり。それは偶然なのか? そして、真壁が過去に遭遇した事件とは……。子供時代に耳にした「首吊り婆」なる都市伝説とか、そういうのも絡んでいって、序盤の流れから、物語の方向性が一気に変わっていくひねり方も上手いな、と感じた。
ただ、解説でも触れられているのだけど、真壁が犯人に気づくきっかけとなるある事実の判明については、物語の一つの肝ではあるのだろうが、ちょっとアンフェア気味な感じはする。また、ある意味、メタ視点での話なのだが、消去法で犯人は……という部分はあったかな? 事件の真相部分については、ちょっと力技な部分は感じないでもなかった。
というか……実は、序盤の、怪我をした少年などを診察し、虐待しているのかどうかを判定していくという話がかなり好きだったりする。その部分に特化した連作短編とかも読みたいな、と思ったりもする。

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Tag:小説感想『このミス』大賞高野結史

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