風よ僕らの前髪を
- 17, 2021 12:36
- や行、ら行、わ行の著者
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著者:弥生小夜子

弁護士である叔父が何者かに殺害された。元調査員の悠紀は、叔父の妻から、実の孫であり、養子である志史がやったのではないかと相談される。かつて、家庭教師と彼を押してたことがある悠希はそんなはずはないと思いつつも、それを引き受ける。年齢に比して老成した志史の過去を調べる中、異様な人間関係を見せつけられることになり……
第30回鮎川哲也賞・優秀賞受賞作。
読んでいて、気の重くなる物語だった。
叔父を殺したのは、養子の志史ではないか? そんな叔母の依頼から始まる物語。
志史は、叔父の実の息子ではあるが、勘当同然で家を出て産んだ子供。実の父はロクデナシであり、母は別の男と再婚。志史は、祖父の養子として育てられることに……。当時、通っていた学校は別の学校に転校させられ、自宅では厳しい教育が……。その中で、転校前、彼は同じ学年の一人の少年と友情を育み、しかし、転校を前にして決別をしていた。そして、志史、その友人・理都の周辺では、数々の事件が……
双方の周辺で起きている事件。そのことについて、アリバイであったりとか、そういうものは成立している。しかし、明らかにおかしなレベルで発生している事件。志史が犯人だとは思いたくはない。でも、中心にいる、というのはこれまた明らか……。そして、その動機は……
丁度、同じようなテーマの作品を立て続けに読んだ、ということはあるのだけど、本作はその中でも常軌を逸している、というか……そういう印象をどうしても思う。一方から見た際の、「正しさ」と言う名の極めて残忍な仕打ち。そして、「愛情」という残忍な行動。それを知っている、知ろうと思えば知ることが出来る存在は近くにいるが、しかし、それをただ見てみぬふりをするだけという地獄のような日々。子供である、ということの無力さ。それでも、という意思。そういうものがこれでもか、と言うほどに凝縮されているのが非常に印象的。
冒頭に、「気の重くなる話」という風に書いた。実際、物凄くその印象は強い。
けれども、中立的な立場である悠希の語り口などがあるため、狂気などを感じつつも、読んでいくうちに狂気以上に、志史、理都の強さ、というのに感情移入し、彼らに惹かれていく、というのも見事なところ。勿論、悪事は悪事なのだけど、それでも……という読後感が何よりも後味として残る作品だった。
No.5882

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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弁護士である叔父が何者かに殺害された。元調査員の悠紀は、叔父の妻から、実の孫であり、養子である志史がやったのではないかと相談される。かつて、家庭教師と彼を押してたことがある悠希はそんなはずはないと思いつつも、それを引き受ける。年齢に比して老成した志史の過去を調べる中、異様な人間関係を見せつけられることになり……
第30回鮎川哲也賞・優秀賞受賞作。
読んでいて、気の重くなる物語だった。
叔父を殺したのは、養子の志史ではないか? そんな叔母の依頼から始まる物語。
志史は、叔父の実の息子ではあるが、勘当同然で家を出て産んだ子供。実の父はロクデナシであり、母は別の男と再婚。志史は、祖父の養子として育てられることに……。当時、通っていた学校は別の学校に転校させられ、自宅では厳しい教育が……。その中で、転校前、彼は同じ学年の一人の少年と友情を育み、しかし、転校を前にして決別をしていた。そして、志史、その友人・理都の周辺では、数々の事件が……
双方の周辺で起きている事件。そのことについて、アリバイであったりとか、そういうものは成立している。しかし、明らかにおかしなレベルで発生している事件。志史が犯人だとは思いたくはない。でも、中心にいる、というのはこれまた明らか……。そして、その動機は……
丁度、同じようなテーマの作品を立て続けに読んだ、ということはあるのだけど、本作はその中でも常軌を逸している、というか……そういう印象をどうしても思う。一方から見た際の、「正しさ」と言う名の極めて残忍な仕打ち。そして、「愛情」という残忍な行動。それを知っている、知ろうと思えば知ることが出来る存在は近くにいるが、しかし、それをただ見てみぬふりをするだけという地獄のような日々。子供である、ということの無力さ。それでも、という意思。そういうものがこれでもか、と言うほどに凝縮されているのが非常に印象的。
冒頭に、「気の重くなる話」という風に書いた。実際、物凄くその印象は強い。
けれども、中立的な立場である悠希の語り口などがあるため、狂気などを感じつつも、読んでいくうちに狂気以上に、志史、理都の強さ、というのに感情移入し、彼らに惹かれていく、というのも見事なところ。勿論、悪事は悪事なのだけど、それでも……という読後感が何よりも後味として残る作品だった。
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