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SCIS 科学犯罪捜査班4 天才科学者・最上友紀子の挑戦

著者:中村啓



人気ユーチューバーである大学生グループが投身自殺した。マインドコントロールを疑う上司は、小比類巻とSCISへ捜査を命じる。そこで浮かび上がったのは……(『操縦されるヒト』)
など、全3編を収録した連作短編集。
まず、粗筋で書いた1編目はちょっとこの巻の中では浮いた印象のエピソード。人気ユーチューバーである大学生グループが投身自殺。彼らは、身体を張ったパフォーマンスで人気を博しており、その地を訪れたのも新作動画の撮影のためだった。その前後に自殺するような兆候は見えず、なおかつ、何か洗脳されたような形跡もない。では? そんなとき、同じように、ユーチューバーが入水自殺する事件が起きて……
話としては、きっちりとまとまっているし、これはこれで完成した物語。ただ、これは私個人の事情なのだけど、同じような話を過去に読んでいるんだよな……。2組目が出てきたところで、「ああ、これか」というのがわかってしまった。その意味で、ちょっと勿体なかった。勿論、知らない人にとっては「えっ!?」という感じになると思うけど。
そして、2編目からは、これまででも出てきたボディ・ハッカーズやら何やらが出てきての話。
結局のところ、このシリーズにおける最大のポイントは、人類が生命を作り出す。それも、自然交配による品種改良とか、そういうものではなくて、バイオテクノロジーとか、そういうものによって……という形で。2編目『増殖するヒト』で描かれるのは、細胞のリプログラミングによって誕生した存在の是非というもの。作中でも描かれているように、iPS細胞などの技術が出来つつある中、それを作り出すことも不可能ではなくなりつつある。そのときに、人とそうではない存在、というのは分けることが出来るのか……
同様のテーマを引き継いでの3編目『原初に生まれた生命』。SCISに入ったのは、ボディハッカー協会のリーダーであるカーンのオリジナルと言われる研究者・榊原茂吉からの依頼。彼の名声を確実なものにした、というシンプリンが盗まれた、という。さらに、榊原は、最上友紀子が学会を追われる原因となった人物で……。ということで、いよいよ親玉との対決か! となったら、どちらかと言うと、科学者の在り方とか、そういう部分に焦点が当たってきたような話。
学説などで対立する。これ自体は別に構わない話。しかし、そこに名誉欲とか、そういうものが絡み、その自らの説が否定されないために……。この辺り、実際にあり得る(というか、あった)話だから嫌な感じ。勿論、研究者だって人間なわけだからエゴとかもあるのは当然。でも、それが科学を捻じ曲げる。そんなメッセージ性を感じた。
その上で、榊原自身が現在どうなっているのか? 当然、周辺ではきな臭い話も色々と……。少しずつ話は佳境に入ってきているのだけど、闇の深さを感じる巻でもあるように思う。

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Tag:小説感想中村啓

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