著者:坂上泉

昭和29年、大阪城の近くで政治家秘書が頭を麻袋で覆われた刺殺体で発見される。大阪市警視庁の若手刑事・新城は、上層部の思惑もあり、国警から派遣されてきたエリート・守屋とコンビを組むことに。だが、元海軍の守屋の、聞き込みすら出来ない様子に新城は苛立ち……
第23回大藪春彦賞、第74回日本推理作家協会賞・長編及び連作短編部門受賞作。
そっか……
いきなり、何か気の抜けた一言から感想を書き始めてしまったのだけど、昭和29年って終戦から10年近く経過しているけど、警察小説、ミステリ小説でお馴染みの警察制度とかが、まだ現在のそれとは全く違うような形だったのだな、というのを初めて認識したかも知れない。
いきなり話が脱線する形にはなるのだけど、現在は都道府県、それぞれに「〇〇県警」のような警察組織が組まれ、その連作調整組織として、警察庁という国の機関があるわけだけど、当時は自治体警察と国家地方警察と言う2種類の警察組織があり、アメリカの警察組織のようなシステムが存在していた。そして、その中での対立なども当然にあった。そんな時代に、それぞれの警察の人間である新城と守屋が組むことになって……というバディものとしてまず、物語が始まる。
中卒で警察官となり、刑事へと引き立てられた新城。母は空襲で亡くなり、戦争で負傷した父は生きる気力をなくして自堕落な日々。そんな自分と父を支えてくれる姉に恩義を感じつつ叩き上げとして実績を重ねてきた。一方の守屋は大学を出て、海軍に所属していた人物。しかし、そのエリートであるからこそのプライドなどから、聞き込みすら覚束ない。戦前、戦中のエリート意識、上から目線の警察の在り方と、戦後の人々に寄り添う警察の在り方。丁度、警察法が改正されようか、そうなったとき、組織はどうなるのか? という混乱がある中で、双方の警察組織の思惑などがぶつかりながらも……という物語がまず印象に残った。
……とはいえ、この守屋、決して嫌な人間ではない、というのがポイントかもしれない。これまでのこともあり、聞き込みをするにも横柄な言葉遣いしか出来ずに失敗ばかり。それに苛立つ新城という形から始まるのだけど、じゃあ、それでいいと思っているわけではなく、コンビを続ける中で、新庄のちょっとした会話から相手の証言を引き出す喋りとかに素直に感服。新庄も当初は反発を抱きつつも、だんだんと「守屋は、ただ不器用過ぎるだけ」と理解していく。定番と言えば定番なのだけど、時代性なども相まってより、その関係瀬を強く感じた。
そして、事件そのもの。衆院議員の秘書、さらに関連団体の人間の殺人。連続殺人の様相が見える中で、その前後で奇妙な動きを見せていたホームレス(作中ではルンペンと表記)の存在。さらに、戦時中の、ある男の描写。それぞれがどう繋がっていくのか? その事件の背景にあった戦時中の政策と、それが生み出した悲劇。戦中・戦後の混乱期だからこそ、そこでのし上がった男の存在と言うのが浮かび上がってくる。実際、戦中戦後の混乱期にヤミ市で財を成して……とか、そういう人物がいるだけに、警察の混乱と合わせて、当時の状況と言うのが強く印象に残った。
まぁ、謎解き、という点では、新城・守屋の関係性、警察の混乱とかに分量を使っている分、それ以外の捜査員が発見した証拠で事件が進んで……というようなあり、捜査の進展を読む、と言う感じが薄く思えたところはある。ただ、実際の事件だってそんなものだろうし……
それよりも、当時の警察、社会の混乱っぷりなどを強く感じた、というところが最大の売りなのかな、と言う風に思う。
No.5928

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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昭和29年、大阪城の近くで政治家秘書が頭を麻袋で覆われた刺殺体で発見される。大阪市警視庁の若手刑事・新城は、上層部の思惑もあり、国警から派遣されてきたエリート・守屋とコンビを組むことに。だが、元海軍の守屋の、聞き込みすら出来ない様子に新城は苛立ち……
第23回大藪春彦賞、第74回日本推理作家協会賞・長編及び連作短編部門受賞作。
そっか……
いきなり、何か気の抜けた一言から感想を書き始めてしまったのだけど、昭和29年って終戦から10年近く経過しているけど、警察小説、ミステリ小説でお馴染みの警察制度とかが、まだ現在のそれとは全く違うような形だったのだな、というのを初めて認識したかも知れない。
いきなり話が脱線する形にはなるのだけど、現在は都道府県、それぞれに「〇〇県警」のような警察組織が組まれ、その連作調整組織として、警察庁という国の機関があるわけだけど、当時は自治体警察と国家地方警察と言う2種類の警察組織があり、アメリカの警察組織のようなシステムが存在していた。そして、その中での対立なども当然にあった。そんな時代に、それぞれの警察の人間である新城と守屋が組むことになって……というバディものとしてまず、物語が始まる。
中卒で警察官となり、刑事へと引き立てられた新城。母は空襲で亡くなり、戦争で負傷した父は生きる気力をなくして自堕落な日々。そんな自分と父を支えてくれる姉に恩義を感じつつ叩き上げとして実績を重ねてきた。一方の守屋は大学を出て、海軍に所属していた人物。しかし、そのエリートであるからこそのプライドなどから、聞き込みすら覚束ない。戦前、戦中のエリート意識、上から目線の警察の在り方と、戦後の人々に寄り添う警察の在り方。丁度、警察法が改正されようか、そうなったとき、組織はどうなるのか? という混乱がある中で、双方の警察組織の思惑などがぶつかりながらも……という物語がまず印象に残った。
……とはいえ、この守屋、決して嫌な人間ではない、というのがポイントかもしれない。これまでのこともあり、聞き込みをするにも横柄な言葉遣いしか出来ずに失敗ばかり。それに苛立つ新城という形から始まるのだけど、じゃあ、それでいいと思っているわけではなく、コンビを続ける中で、新庄のちょっとした会話から相手の証言を引き出す喋りとかに素直に感服。新庄も当初は反発を抱きつつも、だんだんと「守屋は、ただ不器用過ぎるだけ」と理解していく。定番と言えば定番なのだけど、時代性なども相まってより、その関係瀬を強く感じた。
そして、事件そのもの。衆院議員の秘書、さらに関連団体の人間の殺人。連続殺人の様相が見える中で、その前後で奇妙な動きを見せていたホームレス(作中ではルンペンと表記)の存在。さらに、戦時中の、ある男の描写。それぞれがどう繋がっていくのか? その事件の背景にあった戦時中の政策と、それが生み出した悲劇。戦中・戦後の混乱期だからこそ、そこでのし上がった男の存在と言うのが浮かび上がってくる。実際、戦中戦後の混乱期にヤミ市で財を成して……とか、そういう人物がいるだけに、警察の混乱と合わせて、当時の状況と言うのが強く印象に残った。
まぁ、謎解き、という点では、新城・守屋の関係性、警察の混乱とかに分量を使っている分、それ以外の捜査員が発見した証拠で事件が進んで……というようなあり、捜査の進展を読む、と言う感じが薄く思えたところはある。ただ、実際の事件だってそんなものだろうし……
それよりも、当時の警察、社会の混乱っぷりなどを強く感じた、というところが最大の売りなのかな、と言う風に思う。
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