fc2ブログ

うらんぼんの夜

著者:川瀬七緒



片田舎で日々を過ごす女子高生の奈緒。排他的な村の風習にウンザリとしてたある日、同じ部落に東京から引っ越してくる一家が……。その一家の娘で、同級生でもある亜矢子と、奈緒は打ち解けていくのだが、村の人々は……
ミステリー、というか、ホラーというか……
ともかく、物語のほとんどは、田舎の村で暮らす奈緒の、ウンザリとした心情を中心に描かれる。自分たちが所属する「内部落」と、それ以外の「外部落」。内部落の人々は、文字通り、何をするにも繋がっている、という関係性で、しかも、ある意味で排他的な要素が強い。さらに、娘である奈緒には、家の手伝いとか、そういうものを要求するのに、信金に勤めている「跡継ぎ」の兄には甘い。家、という単位が重要で、嫁いで20年以上も経つのに、母はいまだに「嫁」として一段低く見られている。ただ、母もまた、そんな関係性を受け入れている……
そうした関係性は、当然、亜矢子の一家に対しても……
丁度、新型コロナウィルスが、という時期の作品らしく、背景にそれを描くのだけど、亜矢子の一家に対して「東京から来たから、ウィルスを持っているんじゃないか」なんていう偏見の目で語るし、夜中にいきなり野菜などを届けて、しかも、誰の家からなのかも示していないのに「お礼がないなんて」と言い出す。奈緒じゃないけど、そんなの嫌がらせみたいなものじゃないか! っていう話になってくる。そんな中でも、いや、そんな中だからこそ、奈緒は、亜矢子を手助けしたい、と考えるのだけど……
そんな日常描写の中に、村の奇妙な風習であるとか、はたまた、村に訪れる異変……なんていうものはあるのだけど、物語の中心は、閉鎖的な村の、閉鎖的な様子というのがこれでもかと……。これ、自分自身が読んでいて、苦笑いをしつつも「そうだよな」という感想を抱かずにはいられなかった。奈緒じゃないけど、一歩引いて考えれば「違うだろ!」と思えるのだけど、それを自覚できない周囲の人々。そして、反発しながらも、そんな村のしきたりに順応している自分自身……。この辺り、自分自身もそういう部分あるしなぁ……。ある意味、田舎に住んでいて、そこに適応しきれない人間は共感を覚えるんじゃないかな? というのを感じた。
で、そんな中で村の異常が色々と露になってきて……
ひっくり返しとか、一種のホラー的なものが一気に終盤に出てくるわけだけど……ちょっと急展開すぎる気はする。しかも、そのオチは……半ばギャグとしか言えないような気が……。これはこれでアリなのだけど。
ミステリーとしては、ちょっと強引。ホラーとしては、そんなに怖くはない。でも、田舎の生活の息苦しさ、面倒くささ。そういうものを描いた作品としては物凄く共感できる。そんな思いが強く残った。

No.5931

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

スポンサーサイト



Tag:小説感想川瀬七緒

COMMENT 0