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ボーンヤードは語らない

著者:市川憂人



マリア、九条蓮シリーズの第4作となる短編集。全4編を収録。
1編目の表題作。U国A州の空軍基地。廃飛行機置き場で発見された兵士の遺体。殺された兵士の不可解な行動から浮かび上がるのは、部品の横流し疑惑。そんな事件を非公式ながらマリアと蓮が関わることになるが……
軍と警察の間にある軋轢。普通であれば、警察が入って事件捜査をすればよいが、軍と言う機密の塊とも言える組織。しかも、部品の横流し疑惑ともなれば……。どんどん深まっていく不正行為への疑惑。けれども、そんな事件の真相を見抜いたのは、マリアの、極めてシンプルな一言……。色々な情報、疑惑があることで疑心暗鬼が膨らむことで見えなくなってしまうもの。別に軍とかではなくても、こういうことはありそう、という思いと、それを見抜くマリアの着眼点というのが光っている。
個人的に、一番、印象に残ったのは3編目、マリアのハイスクール時代の事件を描いた『レッドデビルは知らない』。親族の思惑などもあり、名門ハイスクールに入れられたものの、学校では問題児とされるマリア。だが、そんな彼女と打ち解けるのは、ハズナという少女だった。しかし、自由を標榜する学校だが、実際には白人至上主義。そんな中で、有色人種である彼女は、差別を受けていた。そして、そんなハズナが不可解な死を遂げていて……
このシリーズ。1980年代というのが舞台になっているわけだけど、そんな時代のアメリカ(作中では、U国となっているけど、バレバレ) 公民権運動などで、人種に関わらず、なんていうお題目はできても、実際には差別意識などは非常に強い。そして、貧富の差も……。勿論、フィクションではあるのだけど、当時を考えると、そういうことはあるだろうし……と思えてくる。そして、事件の真相について……。流石に、ここまで腐ってはいない、と思いたい。思いたいのだけど、でも、作中で言われるように決定的な証拠があるわけではない。そうなると……。苦い結末ではある。でも、その後のマリアの活躍を考えると、ハズナの一言が、マリアの進路を決定した、という意味で彼女の掘り下げとして非常に意味のあるエピソードだった、ともいえるのだろう。
その他、蓮が少年時代に出会った事件を描く『赤鉛筆は要らない』。マリアと蓮がコンビを組んで最初の事件を描いた『スケープシープは笑わない』も含めて、シリーズの中の位置づけとして、主要キャラクターの掘り下げをメインにした作品集と言えるのだと思う。

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Tag:小説感想市川憂人

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