著者:青柳碧人

都内の高校で化学教師を務める牧村は、新聞から取材を受ける。なぜならば、彼は東京湾の海底に作られた都市、海中市の出身。取材を受けながら彼は、期待をされながらも消滅してしまった故郷、そして、そこで出会った後輩・夏波のことを思い出す……
という書き方だと、牧村だけの話っぽくみえるが、牧村が海中市の生活について取材に応える現在パート。そして、女子高生・夏波が海中市で暮らす日々を綴る過去パートを繰り返す形で描かれていく。
文庫裏表紙の粗筋で書かれているので、ネタバレじゃないと思うのだけど、海中市は既に消滅することが結論付けられている。しかし、当時を生きる夏波ら、一般の人々はそんな事実すら知らない。海中にある、という特殊な街に住まう、という以外はごくごく普通の日々。そんな中で、海流発電を止めるべきだ、という人々の意見を目にしたり、不可解な出来事が起きていることを目の当たりにしていくだけ。そんな中で、夏波は、牧村という先輩と出会い、彼はシミュレーションによってさまざまな弊害が起きていること、そして、海中市自体が危機にあることを告げる。
こういう風に書くと、隠された陰謀などと戦う、みたいな話っぽく見えるのだけど、そういう印象は希薄。実は、様々な弊害が出ており、さらに、都市の基盤についても致命的な問題が起きている、ということは確かなのだけど夏波は、牧村から淡々とその情報を得るだけ。牧村も、事実は指摘しつつも、夏波と共に戦う、という感じではない。夏波が、ある行動をとる(取らせる)ことで、事実が明らかに、という展開はあるのだけど、冒険小説という感じの話ではなかった。
では、この作品のテーマって何だろう? と考えたときに思いついたのは、故郷への想い、というものなのかな?
夏波は、海中市で生まれ育ち、文字通り、そこが故郷の少女。だからこそ、そこが批判されることに反発もする。しかし、周囲には、そこまで気にしない者も多数。そして、街の危機がわかれば、それを知らしめるために行動を取ろうともする。一方、牧村は、海中市育ちではあるが、しかし……
愛国心、というか、愛郷心というか、そういうものって何だろうな、というのをちょっと思ったりはする。まぁ、住んでいる町が、具体的な危機にある、という中で、何でそれを知らせないのか、っていう怒りとかはだれでも共通して出てくるものだとは思う。でも、私なんかは、別に故郷の町で暮らせないなら別の町に行けばいいじゃないか、くらいの思いだし、もっと言えば自分は故郷の町が嫌い、くらいに思ってもいる。職場とかで、正月が近づくと「帰郷するの?」みたいに聞かれるのが鬱陶しいくらい。その人にとっては帰郷するのは当たり前、くらいの感覚なのだろう。この辺りの温度差ってベクトルは逆だけど、夏波と周囲の温度差に近いものがあるのかな、なんていうのを思わずにはいられなかった。
でも、当時は、自分に近いような感覚だった牧村が、過去を振り返って思うもの……
もし、自分の故郷が滅びたりしたら、少しは牧村と同じような感覚が得られるのかもしれない……なんてことをちょっと考えたり……
No.5972

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
都内の高校で化学教師を務める牧村は、新聞から取材を受ける。なぜならば、彼は東京湾の海底に作られた都市、海中市の出身。取材を受けながら彼は、期待をされながらも消滅してしまった故郷、そして、そこで出会った後輩・夏波のことを思い出す……
という書き方だと、牧村だけの話っぽくみえるが、牧村が海中市の生活について取材に応える現在パート。そして、女子高生・夏波が海中市で暮らす日々を綴る過去パートを繰り返す形で描かれていく。
文庫裏表紙の粗筋で書かれているので、ネタバレじゃないと思うのだけど、海中市は既に消滅することが結論付けられている。しかし、当時を生きる夏波ら、一般の人々はそんな事実すら知らない。海中にある、という特殊な街に住まう、という以外はごくごく普通の日々。そんな中で、海流発電を止めるべきだ、という人々の意見を目にしたり、不可解な出来事が起きていることを目の当たりにしていくだけ。そんな中で、夏波は、牧村という先輩と出会い、彼はシミュレーションによってさまざまな弊害が起きていること、そして、海中市自体が危機にあることを告げる。
こういう風に書くと、隠された陰謀などと戦う、みたいな話っぽく見えるのだけど、そういう印象は希薄。実は、様々な弊害が出ており、さらに、都市の基盤についても致命的な問題が起きている、ということは確かなのだけど夏波は、牧村から淡々とその情報を得るだけ。牧村も、事実は指摘しつつも、夏波と共に戦う、という感じではない。夏波が、ある行動をとる(取らせる)ことで、事実が明らかに、という展開はあるのだけど、冒険小説という感じの話ではなかった。
では、この作品のテーマって何だろう? と考えたときに思いついたのは、故郷への想い、というものなのかな?
夏波は、海中市で生まれ育ち、文字通り、そこが故郷の少女。だからこそ、そこが批判されることに反発もする。しかし、周囲には、そこまで気にしない者も多数。そして、街の危機がわかれば、それを知らしめるために行動を取ろうともする。一方、牧村は、海中市育ちではあるが、しかし……
愛国心、というか、愛郷心というか、そういうものって何だろうな、というのをちょっと思ったりはする。まぁ、住んでいる町が、具体的な危機にある、という中で、何でそれを知らせないのか、っていう怒りとかはだれでも共通して出てくるものだとは思う。でも、私なんかは、別に故郷の町で暮らせないなら別の町に行けばいいじゃないか、くらいの思いだし、もっと言えば自分は故郷の町が嫌い、くらいに思ってもいる。職場とかで、正月が近づくと「帰郷するの?」みたいに聞かれるのが鬱陶しいくらい。その人にとっては帰郷するのは当たり前、くらいの感覚なのだろう。この辺りの温度差ってベクトルは逆だけど、夏波と周囲の温度差に近いものがあるのかな、なんていうのを思わずにはいられなかった。
でも、当時は、自分に近いような感覚だった牧村が、過去を振り返って思うもの……
もし、自分の故郷が滅びたりしたら、少しは牧村と同じような感覚が得られるのかもしれない……なんてことをちょっと考えたり……
No.5972

にほんブログ村
この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
スポンサーサイト