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変若水

著者:吉田恭教



通勤中の丸ノ内線で幼馴染の医師・玲子が急死した。厚労省官僚の俊介は、玲子の母から彼女のパソコンのデータ処理を頼まれるが、そこには不可解な死を遂げた人物についての内部告発文が残されていた。しかも、その内部告発をした人物も同じように急死。その背景には、山陰の村と、そこに君臨する一族の存在があって……
第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
凄く陳腐な表現なのだけど、物凄く気合の入った作品だな、というのを思う。
目の前で、幼馴染が死亡。普段は、厚労省のお荷物、と言われる俊介だけど、彼女のパソコンに残された内部告発文。さらに、その告発をした人物も死んでいたことから、その真相だけは、と立ち上がる。奇しくも、厚労省内では、ごく一部の人間だけが、そこでヤコブ病、つまり狂牛病に関する疑念が出ていて、その病院の経営者は山陰の寒村の出身。しかも、そこでは奇妙な雛祭りと、不可解な事件が過去に起きていた……
明らかに脳梗塞としか思えない玲子。しかし、俊介はそれが殺人だと確信。でも、どうやって殺したのか? さらに山陰の村で起きている事件とどういう関係があるのか? なぜヤコブ病が発生しているのか? 村の儀式とは一体、何なのか? 医学ミステリ的な話も盛り込み、しかし、横溝正史的な奇妙な風習とか、そういう要素もある。そして、次々と起きていく変死事件は……。様々な要素が混然一体となって盛り込まれ、どこへ転ぶのかわからないスリリングな展開に素直に惹きつけられた。どうやって殺したのか、というトリックについては専門用語が多く、しかも、自分が医学に全く詳しくないので実際に可能かどうかはわからないけど、作中の理屈については十分に納得できたし。
ただ、ここに出てくる登場人物がかなり強烈なキャラクターばかりで、しかも、良くも悪くも一枚岩状態なので、上手くいきすぎじゃないか、と思うところがなかったわけではない。兄弟だったとしても対立したり、なんてことはあるだろうし、まして(いくら、本家が村の支配者だからって)文字通り犯罪の片棒を担ぐのに躊躇する人とか、そういうのもいるはず。犯行の中心人物だけでなく、末端の人間まですべてがピースとして揃っていてこその物語なので、そこまで上手くいくかな? という点がなかったわけではないけれども。
ただ、エンタメ作品として考えるなら、様々な要素、それも医学とオカルトじみた風習など、正反対とも言えるような要素をしっかりと融合させるなど、十分に完成度の高い作品である、と評価できると思う。

No.5977

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Tag:小説感想福ミス吉田恭教

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