著者:近藤史恵

幼いころから海外に興味を持っていた遥。大学を卒業し、念願の海外旅行の添乗員になることが出来た遥。正社員ではない派遣社員だったが、念願かなった彼女の前には様々な客、トラブルが訪れて……
全5編を収録した連作短編集。
ミステリ作品というよりは、お仕事小説、という感じかな? 冒頭に書いたように、新米添乗員である遥が、その旅先でトラブルやらに見舞われて……という形で物語が綴られていくため。個人的に印象に残った話は……
2編目『ドラゴンの見る夢』
クロアチア、スロベニアへのツアーの添乗員となった遥。日本人が殆どいかないそこに参加者の中で気になったのは一組の父娘。派遣社員だという35歳の娘と、そんな娘を「不肖の娘」という父。そんな父の言葉に娘は何か抱えているものがあるようで……。親の期待と娘の葛藤。別にいい加減だったわけではない。頑張ってもきた。けれども、派遣社員にしかなれず……。それは自分が悪いのか? 親に蔑まれなければならないのか? そんな苦しい心情が心に刺さる。
4編目『北京の椅子』
北京旅行の添乗員となった遥。近い場所だし……と思いきや、いきなり荷物が行方不明というトラブルが発生。さらに、そのことにひたすら文句を言う男が……。「これだから中国なんて……」 ひたすら文句を言い続ける男に、ツアーの同行者たちもウンザリ。遥だって、「だったら、なんで中国に来たんだ!」と思えること。そんなウンザリとした思いを抱える中で……
ラストシーンで描かれる男の心情。この人は、物凄く不器用なのだろう。そして、そんな中で強がることで……。決して褒められたことではないのだが、しかし、少し、そんな男の心情が明らかになったことで、ちょっと救われた気分になるのも確か。
そして、現在も続いている新型コロナ禍での5編目『沖縄のキツネ』
作中でも綴られていた遥自身が派遣社員という立場だという話。コロナ禍で仕事はなくなり、実家に帰ったものの、親からは厳しい視線。そんな状況で、沖縄でのテレアポの仕事を見つけ、そこで一人の女性と出会う……
幸い、自分はコロナ禍でも仕事が減るようなことはなかったのだけど、コロナ禍で仕事を失った人も沢山いる。「言わんこっちゃない」という親の言葉は、結果論でしかない。その閉塞感。そして、それは遥だけではなく他の人にも……
各編、旅先の美しい風景などを描きつつ、しかし、同時に人々の抱えた苦しみなどもしっかりと捉える。ただ、それでもちょっと救いに感じる部分がる、というバランス感覚が何よりもすぐれた作品だな、と感じた。
No.5994

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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全5編を収録した連作短編集。
ミステリ作品というよりは、お仕事小説、という感じかな? 冒頭に書いたように、新米添乗員である遥が、その旅先でトラブルやらに見舞われて……という形で物語が綴られていくため。個人的に印象に残った話は……
2編目『ドラゴンの見る夢』
クロアチア、スロベニアへのツアーの添乗員となった遥。日本人が殆どいかないそこに参加者の中で気になったのは一組の父娘。派遣社員だという35歳の娘と、そんな娘を「不肖の娘」という父。そんな父の言葉に娘は何か抱えているものがあるようで……。親の期待と娘の葛藤。別にいい加減だったわけではない。頑張ってもきた。けれども、派遣社員にしかなれず……。それは自分が悪いのか? 親に蔑まれなければならないのか? そんな苦しい心情が心に刺さる。
4編目『北京の椅子』
北京旅行の添乗員となった遥。近い場所だし……と思いきや、いきなり荷物が行方不明というトラブルが発生。さらに、そのことにひたすら文句を言う男が……。「これだから中国なんて……」 ひたすら文句を言い続ける男に、ツアーの同行者たちもウンザリ。遥だって、「だったら、なんで中国に来たんだ!」と思えること。そんなウンザリとした思いを抱える中で……
ラストシーンで描かれる男の心情。この人は、物凄く不器用なのだろう。そして、そんな中で強がることで……。決して褒められたことではないのだが、しかし、少し、そんな男の心情が明らかになったことで、ちょっと救われた気分になるのも確か。
そして、現在も続いている新型コロナ禍での5編目『沖縄のキツネ』
作中でも綴られていた遥自身が派遣社員という立場だという話。コロナ禍で仕事はなくなり、実家に帰ったものの、親からは厳しい視線。そんな状況で、沖縄でのテレアポの仕事を見つけ、そこで一人の女性と出会う……
幸い、自分はコロナ禍でも仕事が減るようなことはなかったのだけど、コロナ禍で仕事を失った人も沢山いる。「言わんこっちゃない」という親の言葉は、結果論でしかない。その閉塞感。そして、それは遥だけではなく他の人にも……
各編、旅先の美しい風景などを描きつつ、しかし、同時に人々の抱えた苦しみなどもしっかりと捉える。ただ、それでもちょっと救いに感じる部分がる、というバランス感覚が何よりもすぐれた作品だな、と感じた。
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