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遠巷説百物語

著者:京極夏彦



盛岡藩筆頭家老にして、遠野南部家当主の密命を受け、市中の情勢を探る宇夫方祥五郎。郷が活気づく一方で、藩の財政は逼迫。街に流通する銭が不足する、という中、祥五郎は世情に詳しい乙蔵から奇妙な話を耳にする。菓子屋から座敷童が出ていき、先代当主、現当主が病に倒れ、嫁も出ていったという。一方で、街では花嫁衣裳の目鼻のない女が現れていて……(『歯黒べったり』)
など、全6編を収録した短編集。
自分がこのシリーズを読むのは7年ぶり。前作『西巷説百物語』は文庫本で読んだので、シリーズの刊行としては11年ぶりとのこと。そして、今回もシリーズの仕掛け人とでも言うべき又市自身は登場せず、又一と仕事を共にしたという長耳こと仲蔵が色々と仕掛けている、という形で進行。物語自体も、祥五郎が街の噂話などを耳にし、その騒動に巻き込まれた人物視点で事件が描かれ、そして、事件の顛末を知った祥五郎が仲蔵の元へ行く……という形で綴られていく。
仕掛けの見事さとか、そういうので一番惹かれたのは1編目、粗筋でも書いた『歯黒べったり』かな? 菓子屋で起こった奇妙な事件と、街に現れるのっぺらぼうとでも言うべき怪異騒動。全くバラバラの出来事のように見えながらも、少しずつその両者の繋がりが見え、そして……。ある意味では綱渡りの計画。しかし、その裏にある緻密な計算。そして、事件の裏側にある狂気。自分は奉行所でもない、という仲蔵の筋の通し方。その辺りのバランスが何よりも絶妙だな、と感じられた。
その後も、巨大な魚。熊……などなどが描かれていくのだが、だんだんと物語は藩全体、そして、日本全体を巡っての事件へと転化されていく。
最初のエピソードでも綴られていた盛岡藩の無謀とも言える失政の数々。豊作続きでありながら安定しない人々の暮らし。そういう人々の何とも言えない不安感というのが、この物語全体の構図を示しているのだ、というのが感じられてくる。
特に、全体を通しての物語の背景にいた人物。私が日本史で、この人物について学んだのは中学時代までなので(高校での日本史は江戸時代に入るくらいまでで、受験は世界史だったので)、この人物と言うとむしろ高潔過ぎるくらい高潔で、故に……みたいなイメージだったのだけど、考えてみればそんな存在がここまでの地位になることはないよなぁ……。そんな存在だからこその野心。そこに放り込まれる人々……
長らく続く江戸幕府による支配。その支配がまさに終焉を迎えつつある。そんな予感を感じさせる物語。
読み終わってみると、そういう部分が強く印象に残った。

No.6000

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Tag:小説感想 京極夏彦

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