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疑傷の鳥はつかまらない

著者:荻堂顕



顧客の要望に応え、偽りの身分を提供する「アリバイ会社」を歌舞伎町で営むサチ。そんな彼女の元にアンナとメイという二人の少女が訪れる。金が手に入る見込みはある。だから、逃がしてくれ、という二人をすげなく返したサチだったが、直後、メイはビルから転落して死亡してしまう。そんな状況の中、アンナを「逃がす」ことにするサチだったが、二人が勤めていたデリヘルの背後にいる暴力団から、二人、そして、その背後にいた愛知県の暴力団関係者を捜すことを命じられて……
第7回新潮ミステリー大賞受賞作。
正直なところ、「新潮ミステリー大賞」の受賞作という名前でロクに粗筋などを理解せずに読んだのだけど、ガッツリとファンタジーへと進んでいったなぁ、という感じ。
粗筋に書いたような形で始まった物語。アンナを逃がす、という決意を抱いたところに現れたデリヘルの店長と背後の暴力団員。金を持ち逃げした、というアンナ。そして、アンナと過去、一緒にいたという佐伯という男を追って、二人がかつて過ごした地へと向かう。そして、そこでは……
劣悪な親の元から家出をし、ホームという地で複数の少年少女たちと暮らしていたアンナたち。彼女らは、闇デリヘルを営んでいた。しかし、そこへ佐伯が介入し、そのホームでの生活は激変していく。そして、そのホームで暮らしていた彼らの間でリンチ殺人事件が起こる。その事件で逮捕された少女たち。アンナとメイは、その殺人に関わっていない、としてお咎めはなかったが……。その一方で、なぜか佐伯もまた、罪に問われなかった……
幸せ、とは言えないものの、それなりに暮らしていたホームでの生活に何があったのか? 闇デリヘルの経営について主導的であった佐伯は、なぜ捕まらなかったのか? 何かを隠している様子のアンナが抱えているものとは? 佐伯の痕跡を探る中でだんだんと露になっていく少女たちの生活の実態。佐伯によってゆがめられていったのではないか、という思いを抱かせつつ、その実は……という流れは、凄惨ではあるがしかし、読ませてくれる。
ただ、そのサチが言う「逃がす」というものが明らかになると、いきなりファンタジー要素が噴出してくる。何しろ、「異世界」だからなぁ……。そして、その異世界で暮らすためには条件があって……。アンナの過去とか、はたまた「生きる」ということは? なんていうテーマに合致しているのは確か。確かなのだけど、いきなり世界観が変化してしまうのはやはりちょっと戸惑う。特にアンナの話はともかく、そのあと、もう一つあると……え? その人も? という部分があるし……
最初に書いたように、事前に情報を仕入れずに読んだので、もし、最初から知っていたらまた違っていたかもしれない。
ただ、それでも後半の展開に驚いていただろうことは間違いないだろうが……

No.6009

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Tag:小説感想荻堂顕

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