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老虎残夢

著者:桃野雑派



碧い目をした武術の達人梁泰隆。女ながらその弟子として、修行の日々を送る紫苑は、武侠としての教えに背きながらも泰隆の養女・恋華との愛を育んでいた。そんな中、泰隆が自らの奥義を譲るとして3人の客人を呼んだ。湖の中に建つ建物での宴が行われた翌朝、泰隆が喉に匕首を刺された遺体で発見され……
第67回江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞が2作同時受賞の時って、片方がちょっと風変わりな作品と言うことが多いのだけど、本作も過去の乱歩賞の傾向から考えると結構、変わり種。
物語の舞台は宋代の中国。身体、精神を鍛え、特殊な能力を身に着けた武侠である紫苑を始めとして、思な登場人物は恋華以外はそんな存在。そして、その基本は身体的な強さなどを鍛える「外功」と、精神などを鍛える「内功」によって鍛えられる、という設定。
泰隆と同門である文和。同じく同門で、飲食店を経営する女性・祥纏。身体的な強さを追い求める僧・為問の3人が、奥義を譲るとして呼ばれた人間。それぞれ、泰隆とは因縁があるようだが……。しかし、そもそもが泰隆の持論などからして、奥義などがあるかあるとは思えない。そして、文和、祥纏は、そこまで奥義を欲しているわけではなく、別の思惑が。一方の為問だけは奥義を欲しているが、しかし、彼は内功に無頓着で、奥義を継承できるのか、と言うと……
そんな面々が、どうやって泰隆を殺したのか? 方法論から、動機……そういうアプローチから犯人が誰なのか? というのを考察していく。その最中で、紫苑、恋華も含めた参加者の背景が明らかになり、そして、作品の世界観の時代設定なども明らかになっていく。そして、やがて判明するのは泰隆の目指していたもの、泰隆の心情へ……
物語の形としては、特殊能力を持った面々が容疑者の、特殊設定の本格ミステリという形ではある。ただ、その本格ミステリという形を作りながらも、そこよりもその背景が強調されるのが乱歩賞と言えばそんな感じはする。イメージとしてはミステリーズ新人賞っぽい感じなのだけど。
物語自体は非常にリーダビリティが高くサクサク読めるし、そういう意味で素直にエンタメ作品としての完成度は高いと感じた。

No.6070

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Tag:小説感想桃野雑派

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