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隠温羅 よろず建物因縁帳

著者:内藤了



踏み入る者を惨殺する蟲峯神の源流は隠温羅流にある。そして、それは隠温羅流の当主にかけられた呪いを解くための鍵でもあった。ようやく見え始めた希望。だが、そんな矢先、鋳鐘建設の屋台骨である棟梁が突然の死を迎える。動揺を隠せない春菜だったが、棟梁の想いも汲み、仙龍の呪いを祓うべく、調査を開始する……
シリーズ完結編。
前巻『蟲峯神』から続く形の物語。
坂崎製糸場の創業者一家の家に祀られた蟲峯神。踏み入る者を惨殺する、というその存在を巡り、慎重に調査を進める鋳鐘建設関係者。なぜか人の足の指と思われるものが祀られている、という異常な状況。そんな蟲峯神を巡っての伝説。それがどう繋がっていくのか? さらに、創業者一家の長老である奥様は、その建物を大事にしたいが、その建物を取り壊し金に換えたい、というものもいる……
このシリーズ、幽霊とか、呪いとかという人ならざる怪異とのアレコレと、春菜自身が広告代理店の人間として建物などについての企画を担当している、という「お仕事」小説としての側面。双方が物語の両輪として存在しているのだけど、今回はその設定が物語に緊張感をうまく与えている。
呪いを解くためにも慎重に調査をし、平和裏に呪いを解きたい春菜。そのために、建物を文化財に指定させ保管をしようと動く春菜。しかし、文化財にしても、それはそれで金が掛かる。だからこそ、文化財として残すための企画まで考えねばならない。それに対して、建物を取り壊し、直ぐに金に換えたいという存在も。保管か、取り壊しか。ただ、呪いやら因縁やらだけではなくて、その攻防が常に繰り広げられることで、まず現実的な戦いというのが勃発する。
勿論、その間にある蟲峯神を巡っての考察も。蟲峯神と隠温羅流の間にある関わり。ヒントは出そろった形。しかし、こうではないかというつながりが見えては、いや……というひっくりかえし。呪いを解かせないための数々の罠。そこに、呪いの根深さ、執念、そういうものが感じられる。そして、それが全てわかって……
物語の登場人物とか、結構、シリーズを通して狭い範囲でやりとりをしていた、とは思う。思うのだけど、例えば主人公である春菜と仙龍の関係性。シリーズ当初は見習いだったコーイチの成長。そういうものがしっかりと感じられるのも確か。……まあ、最終巻で、個人的に一番、自分の心を持って行ったのは、シリーズの中での厄介者だった長坂(パグ夫)が、最終巻では「綺麗なパグ夫」になっていたことなんだけどさ……
呪いを祓って、最後がかなりアッサリしていた気はする。これだけ引っ張ったのだから、すこし、後日談を読んでみたかった、というのはある。
あるのだけど、シリーズを綺麗にまとめてくれてすっきりとした読後感だった。

No.6079

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Tag:小説感想講談社タイガ内藤了

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