著者:支倉凍砂

ラポネルでの騒動を収め、ラウズボーンへと戻ったコルとミューリ。帰還した二人を待っていたのは、ハイランドと教皇庁の書庫管理官のカナン。立場は異なるカナンだったが、不正に手を染める教会を糺すという目的は同じ。そのため、コルによる聖典の俗語翻訳のため、教会によって禁じられた印刷技術の復活を持ち掛ける。早速、コルはその技術を持つ職人を捜すのだが……
この流れで、このひねりを入れてくるか、というのがまず思ったこと。
冒頭に書いたように、聖典の俗語翻訳ということを具体的に推し進めることになったコルとミューリ。そのために持ち掛けられたのは、現代の言葉で言えば活版印刷を復活させよう、というもの。しかし、その技術は教会によって禁じられたもの。つまり、その職人は教会から追われる立場。当然、そう簡単にその居所はわからない。書籍商のル・ロワの協力を得るが、それでも……
活版印刷。それこそ、歴史の教科書とかでは、「活版印刷が発明され、書籍などが普及した」くらいで語られてしまうのだけど、確かに、これって画期的だよな……というのがまず第一。それまでの書籍は写本。文字を読み書きできる者が、一文字一文字文章を書き写す。これでは本は高価なまま。しかし、印刷技術が出来れば……。ただ、その一方で、安価に印刷物が作れる、となるとデマであるとか、そういうものも拡散されやすくなる。書籍商という立場であれば、本の価値というものにも大きな影響が出る。一方で、これまで教会によって独占されていた聖典というものが拡散されることで、その権威性などに大きな変化をもたらすことも出来る。世界史とかの授業でも、こんな説明は受けていたのだけど。物語の中で説明されることで具体的にそういう変化というのを感じられた。……20年以上遅いけどさ。
そんな技術を求めて始まった職人捜し。ようやくその職人を発見するが、その職人はある条件をつける。
……シンプルにその条件をどう解決するか、を考えても面白いのだけど、物語はその矢先にコルがある人物に拉致される、という方向へ。拉致をした人物は、ハイランドの兄でウィンウィール王国の第2皇子であるクリーベント。ハイランドからは警戒されている人物だが……
このクリーベントも良いキャラクターなんだよな。ある意味、理想論を推し進めようとするコルやハイランド。しかし、教皇庁の中にカナンがいるように、それぞれの組織の中には様々な立場の人間がいる。当然、ハイランドのことを快く思わないものも。クリーベントは立場上、ハイランドとは違ったものの見方をするが、しかし、敵対しているわけではない。ハイランドの考えも理解しているが、それだけで終わるとも思っていない。それは自身らのこともある。では、どうするか?
『狼と香辛料』の中でミューリが「聖女」扱いされていた理由が、っていうまとめ方も上手いのだけど、同時に、中盤まで理想論中心だったコルに新たな視野を与えたこと。また、今後、コルが目的へ向かう上での布石というのを打っている巻だと思う。今回はクリーベントが根本では理解していたところがあったけど、そうじゃない、なんてことは当然にあり得るわけだし。
一つの話としても面白かったのだけど、同時に、今後への示唆というのも感じた巻だった。
No.6080

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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ラポネルでの騒動を収め、ラウズボーンへと戻ったコルとミューリ。帰還した二人を待っていたのは、ハイランドと教皇庁の書庫管理官のカナン。立場は異なるカナンだったが、不正に手を染める教会を糺すという目的は同じ。そのため、コルによる聖典の俗語翻訳のため、教会によって禁じられた印刷技術の復活を持ち掛ける。早速、コルはその技術を持つ職人を捜すのだが……
この流れで、このひねりを入れてくるか、というのがまず思ったこと。
冒頭に書いたように、聖典の俗語翻訳ということを具体的に推し進めることになったコルとミューリ。そのために持ち掛けられたのは、現代の言葉で言えば活版印刷を復活させよう、というもの。しかし、その技術は教会によって禁じられたもの。つまり、その職人は教会から追われる立場。当然、そう簡単にその居所はわからない。書籍商のル・ロワの協力を得るが、それでも……
活版印刷。それこそ、歴史の教科書とかでは、「活版印刷が発明され、書籍などが普及した」くらいで語られてしまうのだけど、確かに、これって画期的だよな……というのがまず第一。それまでの書籍は写本。文字を読み書きできる者が、一文字一文字文章を書き写す。これでは本は高価なまま。しかし、印刷技術が出来れば……。ただ、その一方で、安価に印刷物が作れる、となるとデマであるとか、そういうものも拡散されやすくなる。書籍商という立場であれば、本の価値というものにも大きな影響が出る。一方で、これまで教会によって独占されていた聖典というものが拡散されることで、その権威性などに大きな変化をもたらすことも出来る。世界史とかの授業でも、こんな説明は受けていたのだけど。物語の中で説明されることで具体的にそういう変化というのを感じられた。……20年以上遅いけどさ。
そんな技術を求めて始まった職人捜し。ようやくその職人を発見するが、その職人はある条件をつける。
……シンプルにその条件をどう解決するか、を考えても面白いのだけど、物語はその矢先にコルがある人物に拉致される、という方向へ。拉致をした人物は、ハイランドの兄でウィンウィール王国の第2皇子であるクリーベント。ハイランドからは警戒されている人物だが……
このクリーベントも良いキャラクターなんだよな。ある意味、理想論を推し進めようとするコルやハイランド。しかし、教皇庁の中にカナンがいるように、それぞれの組織の中には様々な立場の人間がいる。当然、ハイランドのことを快く思わないものも。クリーベントは立場上、ハイランドとは違ったものの見方をするが、しかし、敵対しているわけではない。ハイランドの考えも理解しているが、それだけで終わるとも思っていない。それは自身らのこともある。では、どうするか?
『狼と香辛料』の中でミューリが「聖女」扱いされていた理由が、っていうまとめ方も上手いのだけど、同時に、中盤まで理想論中心だったコルに新たな視野を与えたこと。また、今後、コルが目的へ向かう上での布石というのを打っている巻だと思う。今回はクリーベントが根本では理解していたところがあったけど、そうじゃない、なんてことは当然にあり得るわけだし。
一つの話としても面白かったのだけど、同時に、今後への示唆というのも感じた巻だった。
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