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終わりの志穂さんは優しすぎるから

著者:八重野統摩



7月、東京のはるか南に位置する咲留間島。俺は、もし自分の納得できる絵が完成させられなければ、この地に骨を埋めようという覚悟で絵を描いていた。そんなある日、俺は、織川志穂という一人の女性と出会う。幽霊を見ることが出来る、という彼女の言葉の真偽はわからないが時間を共有することに。そんな中で、彼女が何かを隠している、ということに気付き……
という形で始まる物語で、形式的には連作短編形式。売れない画家、というか、創作のために、島へやってきた俺こと森が志穂さんと知り合い、話を聞いたりしながら、その謎を解く、というのが基本の話ではある。
例えば、第1章は、志穂さんから聞いた、蓮が咲く沼に関するエピソード。彼女の曾祖母から聞いた話では、その沼ではかつて若い女性が自殺をした。そして、その幽霊が現れるようになった。しかし、その幽霊が目撃されると、蓮の花が消えるのだという。それは一体、どういうことなのか? 幽霊、という話はあるが、しっかりと論理的に、現実的な形でまとめられる謎解きが印象的。
個人的に好きなのは、第2章。森がいつものように絵を描いていると、そこに一人の少女が現れる。その少女・紫杏は、志穂の妹。紫杏は、志穂の秘密を教える、という約束で、森に絵画の指導を求め……。下書き段階では非常に上手いのに、完成してみると……。構図についての話で、森が提案した花を入れる、というものを「呪い」という言葉で拒否した紫杏。その合間での出来事……
多分、この理由については簡単に予想できると思う。ただ、そんな秘密を知った森の指導が素直に良いな、と感じた。自分、芸術とは何か、とか、そういうのは全くわからないけど、色遣いとか、そういうものに対する考え方に何よりも印象的だった。
そして、志穂さんの謎にも迫る最終章。
ずっと森の捜索を見守ってきた志穂。そんな志穂が言う、父が観測所に勤めている、という話を確かめに行き……。
志穂さんに対して巻き上がる疑惑。だが、その想いを問い詰める先で判明する真相……。裏表紙にライトホラーミステリーという言葉があり、第2章までの謎は確かにそんな印象がある。けれども、そんな第1章から、ちょっとしたところに数々の伏線が散りばめられていて、それが全てまとめ上げられる部分は見事の一言。そして、タイトルの通り全編を通じての「優しい」雰囲気。
志穂さんについて、もうちょっと掘り下げが欲しいかも、と思った部分はないではないが、それでも読んでいて心地よかった。

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Tag:小説感想八重野統摩

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