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冷たい檻

著者:伊岡瞬



北陸の過疎の町・岩森村。その駐在所から、警察官が失踪した。県警本部から派遣された調査官・樋口透吾は、後任の駐在員・島崎と共に失踪の謎を追うことに。しかし、それは閉鎖されたショッピングタウン、「かんぽの宿」を引き継いでの大型複合医療施設といった村の事情とも絡み合っていた。そして、凄惨で不可解な殺人事件が発生して……
冒頭に書いたあらすじだと、主人公の透吾が、島崎とのバディで村の秘密に挑む……的な話っぽく思えると思う。でも、実際はそうではない。主人公格といえるのは透吾なのだけど、様々な立場の人間の視点が描かれながら、村の状況とかが少しずつ読者に明かされていく、というような構成の物語になっている、というほうが正しいと思う。
とにかく、物語全体を通して感じたのは、何かおかしなことが起きているらしい。それは間違いないのだろうけど、では、それぞれのエピソードが一体、どこでどうつながっていくのだろうか? という不気味な雰囲気。
主人公格である透吾は、村がどういう状態なのか、というのを予め、ある程度は頭の中に入れた状態で登場。しかし、相棒となる島崎は、透吾がどういう存在なのかも知らないままに案内役を仰せつかる。しかも、島崎は島崎で、形式的に手伝えばよく、その行動は報告せよとスパイのような役割を請け負っている状態。この時点で、何かおかしな空気を感じさせる。
さらに、児童養護施設で暮らす少年たちの間では、『アル=ゴル神』なる神に頼めば、その相手を排除してもらえる、という噂が広まり、実際に失踪したものもいる。更生施設で暮らす青年・レイイチは、そこで鬱屈した生活を送っているが、施設から与えられるサプリメントで一部の人間が性格からして変化しているのではないか、と感じるようになっていた。養護施設の職員・千晶は、勤めやすい施設であるが、何かこの施設はおかしい、という印象を抱いていた。閉鎖されたショッピングタウンの敷地内でラーメン店を営む熊谷。店を閉めようか、とも思う彼の元に、もう少し続けてくれと現金を渡すものが現れ……
自分の実家は、北陸ではないけれども、やっぱり過疎地域。ショッピング施設とか、そういうのもいろいろと縮小したり、なんていうのは目の当たりにしている。その中で、新たな施設、雇用を創設するための働きがあり、しかし、その一方で既得権益とか、その創設にあたっての利権を得ようとして有象無象がうごめく。勿論、そこには町の顔役たる町長とか、長老なんていう面々も顔を連ねている。その構図が、いかにも「田舎」という感じで、読んでいてすごく理解できるところがあった。そして、そんな、ある意味「普通の田舎の風景」と同時進行で起きている、文字通りの「異常な兆候」。これがどう絡んでいくのか……
老人ホームと、更生施設と、児童養護施設が複合された大型医療施設。その中で何かが起きているらしい、ということは早い段階から判明。しかし、それが駐在員の失踪に繋がるのか、といえばそうは思いづらいし、ショッピングタウンや政治に繋がるのか、といっても……。600頁ちかい分量があり、読んでいるうちに、それぞれがどういう事情、秘密を抱えているのかはわかってくるのだけど、どうしてもすべてがどうリンクするのかがわからない。それが最後の最後に結びついたとき……
思ったほど、衝撃的とか、そういうものではなかったな、と思わず感じてしまった。
いや、それぞれの状況がしっかりとつながったのは間違いない。理屈としてしっかりと説明されてもいる。ただ、いくつかの部分とかは背景の背景くらいの薄いつながり、という感じだし、いくつかの部分については偶然の結果でもある。作中の事件とか、そういうものが全て意図的に繋がった結果というのを期待していたので、その点ではちょっと肩透かしという部分はあるかな、と感じた。
でも、先に書いた田舎の雰囲気とか、そういうのは十分に楽しめた。

No.6088

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Tag:小説感想伊岡瞬

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