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7.5グラムの奇跡

著者:砥上裕將



国家試験に合格し、視能訓練士となったものの就職が決まらなかった野宮。後のない状態で受けた北見眼科という小さな眼科医院に滑り込んだ彼は、人の好い院長、凄腕の先輩訓練士の広瀬、マッチョな看護師・剛田、カメラが趣味の看護師・丘本らに囲まれながら日々の仕事に励み……
という眼科医を舞台とした連作短編集。
最初に書いてしまうと、私は著者はデビュー作だけで終るのかな? と思っていた。というのは、デビュー作『線は僕を描く』は素晴らしい作品だったけれども、著者の専門分野を描いた作品で、他の分野はどうかな? と感じたので。そんな中で発表された本作。眼科というものを舞台に、そんな世界を丁寧に描いた作品だった。
視能訓練士。あまり聞きなれない職業で、自分は本作でその存在を知った。仕事は、文字通り患者の視力などを測る仕事。なんか、それだけを聞くと健康診断で「C」の文字を指して「上」とか、「下」とか言わせるものを思い浮かべるのだけど、それは仕事の一つ。通常の検査はそれで足りるけど、語彙力のない子供には? また、勿論、それだけでできる検査では……。1編目『盲目の海に浮かぶ孤島』では、そんな基本的なことがしっかりと描かれながら、患者である子供の不可解な病状の謎解きが楽しめた。
一方で2編目『瞳の中の月』は、コンタクトレンズというものについて。自分はコンタクトレンズを使用したことがないのだけど、瞳にレンズをいれて、ってそれだけでもかなり大変なことはわかる。皆が気軽に使っている道具ではあるけど、極めて高度な技術があり、またリスクも伴う。その一方での、表情とかそういうものに瞳が与える影響も大きい。そんなことをしっかりと感じられた。さらに、治療を受ける側の態度、覚悟みたいなものだとか、はたまた治療を補佐する人間の存在の大切さ。各エピソードの中でそういった諸問題などを描きつつ、でも、物語として面白く仕上がっている。
何よりも好感が持てるのは、主人公である野宮がしっかりと成長している点と、そんな野宮の周囲にいる面々がしっかりとそんな彼をサポートしている様が心地よい点。見方によっては、きれいすぎるってことになるかも知れないけど、これだけ専門的な話などと、野宮の成長というのを中心に描く上ではこれで良いのだろう。
7.5グラム、というのは、眼球の重さになるわけだけど、その小さな器官が物凄く大きな機能を持っていて、当たり前のように感じている「モノを見ることが出来る」というのがとてつもないことなのだ、というのを実感することが出来た。
面白かった。

No.6100

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Tag:小説感想砥上裕將

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