著者:白金透


灰と混沌の迷宮都市。一攫千金を狙い、多くの者たちが集う街にあって、多くの人々の畏怖を集める姫騎士・アルウィン。王国再興を目指すそんな彼女と同棲するマシューは、仕事もせず、喧嘩も弱い害虫。そうみられている。しかし、そんな彼は実は……
第28回電撃小説大賞・大賞受賞作。
見解は分かれると思うのだけど、「異世界ノワール」と紹介されているが、私は「ノワール小説」ではないような気がする。確かに、主人公のマシューは、基本的にはロクデナシ。姫騎士アルウィンに養われている存在ではあるが、彼女の留守の際には娼婦を買ったりするし、仕事などもしていない。そして、やたらと挑発的な物言いなどをしたりもするトラブルメーカーでもある。そういう意味で、品行方正なキャラクターではない。
ただ、ノワール小説って、個人的な印象では、悪人が主人公で、という風に思っているのだけど、マシューの場合は、悪人、ではないと思う。
アルウィンを悪く言う相手に対しては、その報復をするし、世話になっている凄腕の鑑定士だが、クズ男に惚れてしまうヴァネッサが巻き込まれたトラブルなどを解決して見せたりもする。何よりも、アルウィンと出会ったのだって……。そういう意味で、アウトローではあるけれども、決して悪人ではなく、その上で何を最も大事にしているのか、という部分で一本、筋が通ったキャラクターになっていると感じた。そういう意味では、むしろ、ハードボイルド作品に近いのかな、とも。
物語としては、多少、時系列を入れ替えつつも、各章で1つの事件が起こり、それを解決する、という連作短編のような形になっており、その中でマシューの正体だったり、アルウィンが抱えているものだったりが明らかになっていって……という構成。喧嘩も弱く……というマシューが最初の章で、トラブルを解決することで、実は、というのが明かされ、ヴァネッサの巻き込まれたトラブル解決で人物像が明かされる。そして、アルウィンが抱えているものが明かされることで、彼の中の筋が見えて……
確かに、物語終盤、マシューがとった決断はある意味で衝撃的なものではある。あるのだけど、この構成で、彼の中で何が最優先なのか、というのが明らかになっているため、違和感を感じない作りになっている。ここは素直に上手くまとめ上げたな、と思う。最後にやったことも、これも悪意というよりは、信念という方がしっくりくるような気がするから余計にそう思う。
一般小説を含めて、こういう作品を読んだのは久しぶり。そして、その中で、マシューの信念の描き方がきっちりとしていて、それを中心に楽しめた作品だった。
No.6124

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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灰と混沌の迷宮都市。一攫千金を狙い、多くの者たちが集う街にあって、多くの人々の畏怖を集める姫騎士・アルウィン。王国再興を目指すそんな彼女と同棲するマシューは、仕事もせず、喧嘩も弱い害虫。そうみられている。しかし、そんな彼は実は……
第28回電撃小説大賞・大賞受賞作。
見解は分かれると思うのだけど、「異世界ノワール」と紹介されているが、私は「ノワール小説」ではないような気がする。確かに、主人公のマシューは、基本的にはロクデナシ。姫騎士アルウィンに養われている存在ではあるが、彼女の留守の際には娼婦を買ったりするし、仕事などもしていない。そして、やたらと挑発的な物言いなどをしたりもするトラブルメーカーでもある。そういう意味で、品行方正なキャラクターではない。
ただ、ノワール小説って、個人的な印象では、悪人が主人公で、という風に思っているのだけど、マシューの場合は、悪人、ではないと思う。
アルウィンを悪く言う相手に対しては、その報復をするし、世話になっている凄腕の鑑定士だが、クズ男に惚れてしまうヴァネッサが巻き込まれたトラブルなどを解決して見せたりもする。何よりも、アルウィンと出会ったのだって……。そういう意味で、アウトローではあるけれども、決して悪人ではなく、その上で何を最も大事にしているのか、という部分で一本、筋が通ったキャラクターになっていると感じた。そういう意味では、むしろ、ハードボイルド作品に近いのかな、とも。
物語としては、多少、時系列を入れ替えつつも、各章で1つの事件が起こり、それを解決する、という連作短編のような形になっており、その中でマシューの正体だったり、アルウィンが抱えているものだったりが明らかになっていって……という構成。喧嘩も弱く……というマシューが最初の章で、トラブルを解決することで、実は、というのが明かされ、ヴァネッサの巻き込まれたトラブル解決で人物像が明かされる。そして、アルウィンが抱えているものが明かされることで、彼の中の筋が見えて……
確かに、物語終盤、マシューがとった決断はある意味で衝撃的なものではある。あるのだけど、この構成で、彼の中で何が最優先なのか、というのが明らかになっているため、違和感を感じない作りになっている。ここは素直に上手くまとめ上げたな、と思う。最後にやったことも、これも悪意というよりは、信念という方がしっくりくるような気がするから余計にそう思う。
一般小説を含めて、こういう作品を読んだのは久しぶり。そして、その中で、マシューの信念の描き方がきっちりとしていて、それを中心に楽しめた作品だった。
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