著者:原進一


1965年8月、アムステルダムの運河で発見されたバラバラ遺体。身に着けていた肌着から、日本人ではないか、という憶測から様々な出来事を経て、被害者は大阪の繊維会社の駐在員であった坂下五郎であると断定された。しかし、それ以降、捜査は難航を極め、事件はそのまま迷宮入りした。学生時代、その坂下と面識のあった私は、商社の社員として美術品の購入を打診される。そして、その最中で……
第8回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
福ミスって、どちらかというと本格ミステリ志向の賞だという印象があるのだけど、本作はちょっと趣が異なっているな、というのがまず感じたこと。
勿論、実際に起きたアムステルダムでの日本人バラバラ殺人事件というのを下敷きにし、その真相は、という謎解き要素はある。あるのだけど、物語の中心となるのは商社マンである主人公の人生であり、バブル時代の商社の行っていたこと、であり、美術品を巡っての闇マーケットのアレコレというもの。
上京をし、大学生となった私。その美術サークルで私は坂下と出会った。独特の解釈で、美術論、特にフェルメールについて深い造詣をもつ彼に魅了された。しかし、時は学生運動の全盛期。その中で、彼は紆余曲折を経て、繊維会社へと就職した。そして、その先で……。一方、私もまた、大学時代は美術に没頭し、画家を目指しながらも、しかし、挫折をして商社に入ることに……
世はバブル絶頂期。そんな中で、私はオランダへと派遣され、そこで投資対象として美術品の買い付け、という仕事を要請される。現地社員との労使交渉などのトラブル。自身を襲う病魔。そんな出来事がある中、一人の女性からフェルメールのスケッチがある、と持ち掛けられる。そして、そこから闇マーケットの存在についても知っていく……
そんな感じで、物語はあくまでも主人公である「私」の生活などが中心に描かれ、その中でだんだんと謎へと迫っていくことに。殺された、とされる坂下。しかし、かつての坂下を知る身として、本当に死んだのか、という疑問がある。さらに、この事件を題材とした松本清張の小説。取材の際には、坂下ではないのでは、と言っていた清張が、作品では坂下であるとして物語を発表している。綿密な取材から事件を描く清張がなぜ、そこを変えてしまったのか? その裏には何があったのか……。
正直なところ、ある程度は物語の謎が提示されてはいるのだけど、その後は主人公の過去の出来事などが中心に描かれていくため、ちょっともどかしい、と感じた部分があるし、また、美術品などに関する蘊蓄とか、時代背景の説明とかが色々と出てくるため、なかなか物語が先に進んでいかない、というような印象を受けた部分もある。
ただ、最後まで読み終わったときに、そういったものが全て収束して一つの結論へと昇華され、「なるほど!」という読後感を得ることが出来た。
No.6133

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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1965年8月、アムステルダムの運河で発見されたバラバラ遺体。身に着けていた肌着から、日本人ではないか、という憶測から様々な出来事を経て、被害者は大阪の繊維会社の駐在員であった坂下五郎であると断定された。しかし、それ以降、捜査は難航を極め、事件はそのまま迷宮入りした。学生時代、その坂下と面識のあった私は、商社の社員として美術品の購入を打診される。そして、その最中で……
第8回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
福ミスって、どちらかというと本格ミステリ志向の賞だという印象があるのだけど、本作はちょっと趣が異なっているな、というのがまず感じたこと。
勿論、実際に起きたアムステルダムでの日本人バラバラ殺人事件というのを下敷きにし、その真相は、という謎解き要素はある。あるのだけど、物語の中心となるのは商社マンである主人公の人生であり、バブル時代の商社の行っていたこと、であり、美術品を巡っての闇マーケットのアレコレというもの。
上京をし、大学生となった私。その美術サークルで私は坂下と出会った。独特の解釈で、美術論、特にフェルメールについて深い造詣をもつ彼に魅了された。しかし、時は学生運動の全盛期。その中で、彼は紆余曲折を経て、繊維会社へと就職した。そして、その先で……。一方、私もまた、大学時代は美術に没頭し、画家を目指しながらも、しかし、挫折をして商社に入ることに……
世はバブル絶頂期。そんな中で、私はオランダへと派遣され、そこで投資対象として美術品の買い付け、という仕事を要請される。現地社員との労使交渉などのトラブル。自身を襲う病魔。そんな出来事がある中、一人の女性からフェルメールのスケッチがある、と持ち掛けられる。そして、そこから闇マーケットの存在についても知っていく……
そんな感じで、物語はあくまでも主人公である「私」の生活などが中心に描かれ、その中でだんだんと謎へと迫っていくことに。殺された、とされる坂下。しかし、かつての坂下を知る身として、本当に死んだのか、という疑問がある。さらに、この事件を題材とした松本清張の小説。取材の際には、坂下ではないのでは、と言っていた清張が、作品では坂下であるとして物語を発表している。綿密な取材から事件を描く清張がなぜ、そこを変えてしまったのか? その裏には何があったのか……。
正直なところ、ある程度は物語の謎が提示されてはいるのだけど、その後は主人公の過去の出来事などが中心に描かれていくため、ちょっともどかしい、と感じた部分があるし、また、美術品などに関する蘊蓄とか、時代背景の説明とかが色々と出てくるため、なかなか物語が先に進んでいかない、というような印象を受けた部分もある。
ただ、最後まで読み終わったときに、そういったものが全て収束して一つの結論へと昇華され、「なるほど!」という読後感を得ることが出来た。
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