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OFF 猟奇犯罪分析官 中島保

著者:内藤了



内覧のために訪れたアパートで発見したのは、無惨に殺された少女の遺体。精神科医・早坂の元で治療を受けながら、新米カウンセラーとして活動する中島保は、犯罪者の脳に働きかける「スイッチ」の開発を行っていた。殺人への欲望を強制的に痛みに変換させる。そんなSFじみた研究は見事に成功。野放しになっている犯罪者に「スイッチ」を埋め込む保だったが……
『藤堂比奈子』シリーズのスピンオフ作品第3弾。
過去のスピンオフ『石上妙子』『厚田巌夫』は、シリーズの前日譚なのに対し、本作は1作目『ON』の裏側を描いた話と言える。そのため、物語の結末とか、そういうものは最初から分かっている状態で進んでいく。むしろ、比奈子視点で描かれたため『ON』では描き切れなかった保の心情を描いた、と言うことが大きいのかな?
物語の入りとしては冒頭の通り。無惨に殺害された少女。その姿が頭を離れず、トラウマとして抱えている保。だからこそ、そのような犯罪は許せない。そんな思いで開発した「スイッチ」。殺人犯だからと殺す、とか、そういうことではなく、純粋に罪を犯せない状況を作り出したいだけ。そんな実験は成功し、師である早坂は、そのスイッチの埋め込みをすすめるように進言。その通りに埋め込みをすすめていくのだが……
シリーズの中でも、誠実な研究者として描かれていた保。しかし、自身の経験、さらに、自分のクライアントに起きたこと。そんな悲しみがこれでもかと描かれ、さらに、自分でも思ってもみなかったスイッチを埋め込むことによって起きること……。ある意味で、保もまた、巻き込まれただけ、という構図がよくわかる。しかし、人一倍、真面目であるという性格だからこそ、彼は追い詰められていく。
そういう中で保が出会った比奈子。シリーズを通して、比奈子が保に対して想いを抱いているが……という場面は数多くあったのだけど、そういう状況だったからこそ、比奈子の存在は保にとっても大きかったのだな。しかし、もし、この出会いがもう少し早ければ……
物語の流れそのものは、最初から分かっていたのだけれども、比奈子にとっての保、保にとっての比奈子。そんな二人の関係性を、より深く感じさせてくれるスピンオフ作品だった。

No.6146

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Tag:小説感想角川ホラー文庫内藤了

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