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連鎖犯

著者:生馬直樹



「凛ちゃんと翔くんを誘拐しました」 シングルマザーである戸川尚子の元へ届いたのは中1と小6の子供を誘拐した、という一報。犯人は身代金として500万円を要求するが、尚子にそんな余裕は……。それから7年後、事件で名を売ったコメンテーターが何者かに殺害されて……
結構、面白い展開を見せた作品だな、というのがまず第一。
ネタバレ(と言っても、ネット書店などの粗筋で書かれている範囲だが)をしてしまうと、冒頭に書いたような形で、尚子の子供たちが誘拐される、というところから物語は始まる。高校を中退し、家出同然で結婚をし、しかし、夫のDVによって離婚をした尚子。親からは勘当されたような状態であるために相談はできず、警察の仲介があってもその願いは断られてしまう。「支払えないなら」という最後通牒をされ、覚悟をしたものの、なぜか犯人は子供を開放し無事に戻ってくるが、待っていたのは「非常識な親」という世間からのバッシング。その中で尚子は転落死してしまう……というのが第1章。
物語のテーマは貧困。
第1章は、尚子、誘拐事件を追う刑事の視点で綴られるのだけど、そこに横たわるのは「どうしようもない」という絶望感。貧困を題材にした作品だと、DVとか、ネグレクトとかそういう虐待の話になるかと思うのだけど、尚子自身はそういう人物ではない。貧しいのは確か。しかし、貧しいながらも子供のことを大事にしているし、将来のことも考えている。だが、誘拐という事件を前に物理的に金がない、というのはいかんともしがたい。そして、犯人の気まぐれなのか、子供たちが戻ってきた中で始まったのは、世間からのバッシング……
こういうもの、実際に見かける。この作品では、夜、仕事で疲れ果てて帰ったとき、子供が腹が減った、というのでお金を渡して、というのがバッシングの理由となったわけだけど、それだけをもって……というのも違うと思うし。
そして、7年後、そのバッシングを煽ったコメンテーターが他殺体で発見されて……からの第2章。事件を調べる刑事の頭に浮かんだのはその時に残された姉妹。児童福祉施設に引き取られた彼らは2年前に出所し、現在は行方不明。そんな彼らは、仕事が長続きしない状態にあった。
「努力が足りない」そんな言葉はよく聞かれる。しかし、十分な教育を受けられず、しかも、偏見の眼で見られるそういう幼い時代を過ごした者は、就職、職場でも軽く見られてしまう。それは本当に彼らだけの責任なのか? そして、出所した姉弟は施設に対しての不信感も口にしていた。そんな施設の置かれた現状……。子供を引き取る、と言っても、そこには金が掛かる。補助金が出る、とは言えそれは微々たるもの。最低限の金で、最低限の人員で、問題を抱えた子供たちをどうにかしなければならない。それをする中で、子供の信頼を損なうこともしなければならないことも……。この辺りの問題提起は読んでいて耳が痛い。
ただ、事件の真相とかについては、ちょっと無理矢理にまとめた感はあるかな。偶然、関係者が近い場所にいて、実はつながりがあって……というのはちょっと無理があるように感じられる。しかも、途中、仕事とかが全くできず……という姉弟が信じられないくらい完璧に立ち回っている、というのもちょっと違和感が残るし。問題提起とかは読みごたえがあったけど、事件の真相部分はちょっと違和感が残った。

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Tag:小説感想生馬直樹

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