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五つの季節に探偵は

著者:逸木裕



2002年春、高校2年になったばかりの榊原みどりは、いじめに苦しむ同級生の怜から「担任の清田の弱みを握ってほしい」と依頼される。父が探偵だから、ということで、渋々、清田の尾行を始めるみどりだったが、だんだんと他人の秘密を探る、ということの喜びを知って……(『イミテーション・ガール』)
から始まる連作短編集。全5編を収録。
冒頭の粗筋で描いた02年から、各編、時間を進めていって18年、みどりが32歳となった時までの事件という形で綴られる。
この作品、主人公であるみどりの性格というか、人物像が印象的。まぁ、事件そのものも結構、ビターな話が多いのだけど。
その導入となる1編目。冒頭に書いたように、いじめに苦しんでいる怜からの依頼。いじめを行っている相手は別人だが、担任の清田は全く受け取ってくれない。だからこそ……。半ば、強引に引き受けることになった仕事だが、風俗街などに繰り出す清田の本性を知り、そのことが楽しくなってくる。そして、清田と怜に不純な関係が? ということも。だが……
人の本性を暴く、ということの楽しさを知る、というみどりの原点と、調査を依頼する側のエゴ。一応、平和裏に終わらせてはいるのだけど、このエピソードで作品の方向性というのが見えたような感じがする。
終わり方が強烈という意味では、2編目『龍の残り香』。大学生となったみどりは、友人で香道をやっている保奈美から「龍涎香」が盗まれた、という話を聞く。酔っぱらってカバンを忘れてしまったときに、それを盗まれた。犯人は、香道教室をしている君島ではないか、というのだが……
最初から犯人が誰なのか、というのはわかっている状態でそれをどう自白させるか、という形の話。そのやり方がえげつない。保奈美自身、君島に盗まれたことはわかっているが穏便に、と思っているのだがみどりがとった手は……。真実を白日の下にさらす、というのは時に依頼人をも傷つけかねない、というのは間違いないのだけど、まさにその通りの結末。そして、それでも……というみどりの人物像が強烈に印象に残る。
そして、その後、父の経営する事務所に就職し、ある意味で危険を顧みずに、なんていう話が描かれての5編目『ゴーストの雫』。
依頼人は妹へのリベンジポルノがばらまかれてしまったので、その妹の元恋人を探してほしい、というもの。しかし、名前は偽名。写真も後姿を移した者しかない、という状況。みどりは、鳶職から転職したという新人の要と共に捜索を始めるが……
このエピソードでも、真相はかなりビターなもの。そして、依頼人は妹ではなく、その兄。しかし、みどりは全てを暴いてしまう。そんなとき……。みどりの容赦ない人間性というのは、ここでも健在。なのだけど、そこに要という新米が加わることで物語の新たな面を見せたな、という印象を残す話になっている。先に書いた、真相を明らかにすることは、必ずしも幸せな結末へは結びつくとは限らない、というのは確か。しかし、真相を明らかにし、その上で何か足がかりがあれば……
みどりの人間性というのが強烈だったのだけど、ここに要が加わることで、今後、彼女らの調査が化学変化を起こしていくんじゃないか、という予感を持たせる結末だった。

No.6159

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Tag:小説感想逸木裕

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