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スパイ教室07 《氷刃》のモニカ

著者:竹町



『鳳』の仇敵、フェンド連邦のチーム『ベアリス』を巧妙な策略によって制圧した『灯』。だが、クラウスらを待っていたのはモニカの裏切りにより、負傷者3人の上、グレーテを誘拐されたという事態だった。モニカの裏切りにより半壊した『灯』は、彼女を追い、フェンド連邦を駆け巡ることになり……
抜群の引きだった6巻から続いての今巻。
これまで、このシリーズの場合、最初に何をすべきか、というミッションが与えられ、『灯』のメンバーの誰かの視点で、そのミッションに挑む、という形の物語が進んでいったわけだけど、今回の物語は、裏切った側であるモニカ。そして、その『灯』のボスであり、しかし、部下に裏切り者を出してしまったクラウスの視点で綴られていく。
最強のスパイ、と言われるものの、後進の育成ということには疎かったクラウス。それでも『灯』の面々は力を付けていった。エリート集団であった『鳳』とも渡り合えるほどに。だからこそ、『鳳』との交流に『灯』の成長を任せてしまった部分もある。チームを裏切ったモニカの心にあったものにも気づき、違和感も感じていたのに……。そして、それでもなお、モニカは自分の生徒であり、取り戻したい……。これまで、『灯』メンバーたちの視点で綴られ、何を考えているのかわからないところもありつつも、しかし、全てを見通しているが如く動いていたクラウスの本心が知れた、という部分でまず新鮮。
その上でのモニカ。貴族の家に生まれ、その生まれ持っての器用さもあり、様々な習い事で力を発揮していたものの、同時に「熱がない」とも言われた彼女。スパイ学校へと進み、そこでも将来を嘱望されたものの、本当の「一流」に打ちのめされ挫折する。そうして入った『灯』。落ちこぼれメンバーと言われる仲間に囲まれることに。あまりにもレベルの低い面々。しかし、それでもなお、前向きである少女に心を惹かれ……。クラウス、そして、一部のメンバーにはその心を知られながらも、決してかなうことのないその想いを抱えることに。そんなとき、モニカの前に現れたのは『蛇』のメンバー翠蝶。翠蝶は、その想い人を人質に裏切りを迫ってきて……
クラウスじゃないけれども、『灯』の中でも随一の実力者、そして「手のかからない存在」として描かれてきたモニカ。そんな彼女がどういう人物なのかという掘り下げがされていく。
モニカにとって、まず守るべきは自分の想い人。決してかなうことがないとわかっていても、それでも、という悲痛さ。さらに、彼女自身、翠蝶に従えばそれで安泰とも思っていない。だからこそ、翠蝶に従いつつも練っていく作戦。そこにあるのは、クラウス、そして他のメンバーへの信頼。ちょっとひねくれた部分がありつつも、モニカもまた『灯』のメンバーである、というのがわかり、だからこその、自分をすべて犠牲にして、という思いが痛々しかった。
このシリーズの基本である1巻で一つの事件を解決する。これはしっかりと踏襲されているのだけど、今回はそんなモニカの想いと、その事件そのものは解消。しかし、彼女の裏切りなどによるダメージは残ったままで、さらに全体を通した事件は進行中。クラウス、『灯』の危機は置き去りのまま。前巻に続き、ここからどうひっくり返していくのか気なる終わり方でもある。

No.6160

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Tag:小説感想富士見ファンタジア文庫竹町

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