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約束の小説

著者:森谷祐二



医師である瀬野上辰史の元を訪れた妹・勝子が告げたのは、父が死んだ、ということだった。後継者候補に、という話が出る中、せめて最後のあいさつに、と北海道の屋敷を訪れた辰史だったが、そこで彼を待っていたのは一族の掟による婚姻と、それを迫る頑固な祖母。そして、後継者を辞退せよ、という脅迫だった……
第12回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
メインはむしろソッチか! ……読んでいない人には、何のこっちゃって感じの感想から入ってみる。
物語は、冒頭に書いたように辰史が父の死をきっかけに、北海道にある父の屋敷を訪れる、というところから始まる。ただ、辰史は父の正妻の子ではなく、女好きである父が、屋敷の使用人である母と関係を持ったことで生まれた子。母を捨てた父には憎しみがあるし、当然、家を継ぐつもりはない。父の天城ではなく、母の瀬野上を名乗っているのも、そのため。だが、一族の掟により、当主はその当主の第一子が継ぐ。そして、当主は、本家の血筋のいとこと結婚をする、という風に定められている。
辰史自身が言うように、あまりにも馬鹿馬鹿しい話。しかし、祖母はその掟に従うよう迫る。一方で、従姉妹にあたる後継者候補・宗史は辰史に辞退するように迫り、さらにそれによって妹の勝子との結婚を望んでいた。しかし、勝子は宗史のことを嫌っていて……。そんな状況の中、さらに祖母はある秘密を明かすことで辰史を後継者になるように促し、辰史もそれに従うことにする。そんな直後、祖母が不可解な死を遂げ、さらに第2の事件も起きて……
雪に閉ざされた屋敷。当然のように特殊な構造をしており、その中で起きた遺体の不可解な移動……とまさにガジェットは本格ミステリのそれ。そして、犯人の動機なんかにしても、敢えて常人には共感できないものにする辺り、トリックをどう論理的な形で解明するのか、という本格志向というのを感じる。感じるのだけど……
実は、物語の肝はそこじゃなかった、というのがこの作品の味なのだと思う。
ここまで全く感想では触れなかったのだけど、実は辰史の物語と同時進行で、一人の少女の話が綴られる。親のいない孤児として、養護施設で育てられた彼女。成長をしてもなぜか初潮が訪れず、しかも腎臓に病を抱えている。そんな自分は何なのか? そんなことを考えざるを得ない少女。そんな物語が並行して綴られていく。辰史との接点というのが一切訪れず、しかし、辰史の物語の中でも同様の部分が……。辰史の父が、掟を破ってまで辰史を後継者にしない、と決めていた理由。一族に現れる「鬼の子」の理由……
本格モノのガジェット、その通りのトリックと形の上ではガチガチの本格モノに見せかけて、最後に一気に別の決着へと結びつける終盤のひっくり返しが印象に残った。

No.6163

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Tag:小説感想福ミス森谷祐二

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