著者:市川憂人


2022年5月。茨城県つくば市で女子大生が殺害された。つくば署の新米刑事の唯歩は、上司である仲城と共にその捜査に当たるが……(『宴の後』)
から始まる連作短編集……のように見せかけた長編。
冒頭に書いたように物語の舞台は2022年と現在……より数カ月だけ先という時間軸の物語。新型コロナ禍とか、そういったところは、現代のものを踏襲している形になっている。ただ、著者のデビュー作である『ジェリーフィッシュは凍らない』もそうなのだけど、現実のような時間軸で語られながら、しかし、パラレルワールドとなっているのが特徴と言えるだろうか。本作の場合は、警察が過去の不祥事により大きな改革がなされた、という部分がそのパラレルワールドたる所以になっている。
とは言え、その大改革の部分はともかくとして、全4章のうちの前半2編については、現実でも十分にありそうな話。
冒頭の粗筋で書いた第1章で殺害された女子大生。自転車屋でバイトと大学での授業を受けるながら、趣味であるアニメに没頭する、というのはごくごく普通の学生という印象。しかし、そうは言いつつも、そんな彼女が住んでいるアパートは築年数がたち、他の部屋は空き部屋ばかり、という格安物件。その辺りは、仕送りとかそういうのも少なくて苦しい、という現在の大学生の現状とリンクしているし、また、その犯人は……。被害者自身も決して恵まれているわけではない、という中で、しかし、妬みやらが出来てしまって……。こういう事件に、っていうのは少ないとしても現実の社会問題とリンクしている部分がある。第2章の、IT企業での事件も同様。コロナ禍で、リモートワークが一般化した。通勤から解放された、と言われるものの、しかし実際には仕事とプライベートの境界を曖昧にして……。そんな問題をしっかりと切り取っている。
と、書いたところでの第3章。クローズドサークルと化したホテルで起きた殺人。唯歩はその犯人を推理の末に見つけた、と思われたのだが……
改革によって良いことづくめ、と言われている。それを象徴するエース刑事。しかし、その裏にあるのは……
この手の改革というのは沢山行われているけど、確かに理念と現実の間には差異がある。うちの田舎なんて、明らかに改革によって不便になったしなあ……。その辺りの部分が物凄く印象的だった。
まぁ、物語の背景にある過去の事件とか、最初から描かれてはいるものの、ちょっと後出し気味な気がしないでもないのだけど、謎解きよりもその部分が印象に残った作品だった。
No.6167

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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2022年5月。茨城県つくば市で女子大生が殺害された。つくば署の新米刑事の唯歩は、上司である仲城と共にその捜査に当たるが……(『宴の後』)
から始まる連作短編集……のように見せかけた長編。
冒頭に書いたように物語の舞台は2022年と現在……より数カ月だけ先という時間軸の物語。新型コロナ禍とか、そういったところは、現代のものを踏襲している形になっている。ただ、著者のデビュー作である『ジェリーフィッシュは凍らない』もそうなのだけど、現実のような時間軸で語られながら、しかし、パラレルワールドとなっているのが特徴と言えるだろうか。本作の場合は、警察が過去の不祥事により大きな改革がなされた、という部分がそのパラレルワールドたる所以になっている。
とは言え、その大改革の部分はともかくとして、全4章のうちの前半2編については、現実でも十分にありそうな話。
冒頭の粗筋で書いた第1章で殺害された女子大生。自転車屋でバイトと大学での授業を受けるながら、趣味であるアニメに没頭する、というのはごくごく普通の学生という印象。しかし、そうは言いつつも、そんな彼女が住んでいるアパートは築年数がたち、他の部屋は空き部屋ばかり、という格安物件。その辺りは、仕送りとかそういうのも少なくて苦しい、という現在の大学生の現状とリンクしているし、また、その犯人は……。被害者自身も決して恵まれているわけではない、という中で、しかし、妬みやらが出来てしまって……。こういう事件に、っていうのは少ないとしても現実の社会問題とリンクしている部分がある。第2章の、IT企業での事件も同様。コロナ禍で、リモートワークが一般化した。通勤から解放された、と言われるものの、しかし実際には仕事とプライベートの境界を曖昧にして……。そんな問題をしっかりと切り取っている。
と、書いたところでの第3章。クローズドサークルと化したホテルで起きた殺人。唯歩はその犯人を推理の末に見つけた、と思われたのだが……
改革によって良いことづくめ、と言われている。それを象徴するエース刑事。しかし、その裏にあるのは……
この手の改革というのは沢山行われているけど、確かに理念と現実の間には差異がある。うちの田舎なんて、明らかに改革によって不便になったしなあ……。その辺りの部分が物凄く印象的だった。
まぁ、物語の背景にある過去の事件とか、最初から描かれてはいるものの、ちょっと後出し気味な気がしないでもないのだけど、謎解きよりもその部分が印象に残った作品だった。
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