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鑑定人 氏家京太郎

著者:中山七里



元科捜研の研究者であった氏家京太郎。彼が立ち上げた民間捜査鑑定所・氏家鑑定センター。そこへと舞い込んだのは、女子大生3人を惨殺したとされる猟奇殺人犯・那智の弁護士からのもの。犯人は、3件の事件中、2件については容疑を認めているが、1件の犯人は自分ではないという。氏家は、その事件についての調査を始めるが……
うーん……なんか、思っていたのと違ったなぁ、という感じ。
冒頭に書いたけど、主人公の氏家は科捜研の研究員であり、彼の部下たちも同様の経歴を持つ専門家たち。となると、著者の作品で言うと「ヒポクラテス」シリーズのように、現場などに残された痕跡の取得やその分析というのを中心にして物語が展開するのかな、と思ったのだけど……それではない部分に焦点が当たっているように感じられた。
ともかくストーリー。冒頭に書いたような形で入った依頼。犯人である那智が認めていない1件の殺人についての無罪を探る、というもの。世間では、全て那智の犯行という評価になっており、被害者遺族からの協力も難しい。永山基準と言われる3人以上の殺人では死刑、というのを回避するためでは? とも言われる。勿論、事件から時間が経過しており、その痕跡も消えたりしてしまったものが多数。それでも、解剖をした法医学者などのつてをたどり、少しずつ情報を集める中、試料の入れ替え疑惑が浮かんできて……
事件現場の痕跡を辿るため、掃除が行き届きづらい場所を探る、とか、細かなところでは、試料分析とかそういうアレコレは出てくるのだけど、物語の中心は警察組織と民間捜査鑑定所の対立とか、そういう一種の派閥争い的な部分が中心になってしまうため、どうしても「思っていたのと違う」感を覚えてしまった。しかも、途中で氏家の部下が襲撃される、みたいな展開を入れてしまったため、3つめの事件については裏がありますよ、とハッキリさせてしまった感じがあるし。
ここのところ読んだ著者の作品の中では面白かった方なのは確かなのだけど、270頁ほどの分量で裁判、警察と民間(氏家と科捜研での因縁)、弁護士と検事の因縁、被告である那智の人間性、永山基準の是非、分析……と色々な要素が詰め込まれ過ぎかな、とも感じる。もうちょっと絞るか、分量を割いてそういうのを掘り下げていけば、もっと面白いものになったんじゃないかな、と感じる。

No.6202

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Tag:小説感想中山七里

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