著者:秋尾秋


死体と魂を結び付け、一時的に死者を蘇らせる能力・傀々裡。傀々裡師たちが所属する福音協会に所属する黒緒と白夜は、何者かに殺害された少女を蘇らせる依頼を受ける。だが、その儀式の直前、その遺体は眼球をくり抜かれ、舌を抜かれ、指を切り落とされた状態にされてしまう。これでは、甦らせることが無意味。傀々裡を敵視するテロリストの関与も疑われる中、白夜たちは、なぜ少女が「殺し直された」のかを調べることにして……
第20回『このミス』大賞・隠し玉作品。
死者を蘇らせることが出来る特殊能力が存在する世界での不可解な事件。物語の設定としては、特殊設定ミステリ。そして、だからこそのトリックも用いられている。いるのだけど、全体を通してみると、結構、オーソドックスなミステリのような流れだな、という印象を受けた。
この世界の設定は、死者を蘇らせる技術が存在している世界。一時的に蘇らせることが出来、しかも、会話なども可能。なので、殺人などであれば被害者本人に聞けば良い、という部分もある。しかし、術をつかえば、その分、術者の生命力は削られる。さらに、一見、生きている人と同じように見えるが肉体は死体。なので、腐乱していくことにもなる。結局、一時的に、しか出来ない。
というものがあるのだけど、物語は、白夜たちが事件の関係者に話を聞き、アリバイとか、そういうものを調べる、というものを繰り返していく。殺害された少女は、周防家の長女。彼女には兄と妹がいるが、両親は彼女だけを溺愛し、他の兄弟は不満を持っている。その周防家には、当主の弟も住んでいるが、彼はかつて誘拐事件を起こした、という過去を持ち、当主の兄夫婦に毛嫌いされている。また、近所に住むの弟夫婦、さらに、当主の妻に憧れる同級生の母。お手伝いさん……らがその現場にいて……
最終的にはトリックとか、そういう部分に収束するのだけど、読んでいる最中はむしろ、その一家のドロドロとした部分が印象的。兄弟ではあるが、明らかに優遇された長女と、それ以外の扱い。事件を起こした、という過去のために忌み嫌われているが、長女以外も大事にしている様子の当主の弟。殺された長女に憧れ、同じような道を歩ませようとするが、シングルマザー故に苦しいママ友。そして、そんな一家のことを見聞きする中で、双子でありながら黒緒に叶わなかった白夜の劣等感などが蘇り……。この辺りは設定とか関係なく、普遍的にあるものだと思うし、それが上手くトリックの目隠しにもなっている、というのを読了後に感じた。
まあ、よくよく考えるとこのトリックについて、警察などがしっかりと検視などすれば、って気もしないでもないのだけど……それを言うのは野暮なのかな?
No.6208

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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死体と魂を結び付け、一時的に死者を蘇らせる能力・傀々裡。傀々裡師たちが所属する福音協会に所属する黒緒と白夜は、何者かに殺害された少女を蘇らせる依頼を受ける。だが、その儀式の直前、その遺体は眼球をくり抜かれ、舌を抜かれ、指を切り落とされた状態にされてしまう。これでは、甦らせることが無意味。傀々裡を敵視するテロリストの関与も疑われる中、白夜たちは、なぜ少女が「殺し直された」のかを調べることにして……
第20回『このミス』大賞・隠し玉作品。
死者を蘇らせることが出来る特殊能力が存在する世界での不可解な事件。物語の設定としては、特殊設定ミステリ。そして、だからこそのトリックも用いられている。いるのだけど、全体を通してみると、結構、オーソドックスなミステリのような流れだな、という印象を受けた。
この世界の設定は、死者を蘇らせる技術が存在している世界。一時的に蘇らせることが出来、しかも、会話なども可能。なので、殺人などであれば被害者本人に聞けば良い、という部分もある。しかし、術をつかえば、その分、術者の生命力は削られる。さらに、一見、生きている人と同じように見えるが肉体は死体。なので、腐乱していくことにもなる。結局、一時的に、しか出来ない。
というものがあるのだけど、物語は、白夜たちが事件の関係者に話を聞き、アリバイとか、そういうものを調べる、というものを繰り返していく。殺害された少女は、周防家の長女。彼女には兄と妹がいるが、両親は彼女だけを溺愛し、他の兄弟は不満を持っている。その周防家には、当主の弟も住んでいるが、彼はかつて誘拐事件を起こした、という過去を持ち、当主の兄夫婦に毛嫌いされている。また、近所に住むの弟夫婦、さらに、当主の妻に憧れる同級生の母。お手伝いさん……らがその現場にいて……
最終的にはトリックとか、そういう部分に収束するのだけど、読んでいる最中はむしろ、その一家のドロドロとした部分が印象的。兄弟ではあるが、明らかに優遇された長女と、それ以外の扱い。事件を起こした、という過去のために忌み嫌われているが、長女以外も大事にしている様子の当主の弟。殺された長女に憧れ、同じような道を歩ませようとするが、シングルマザー故に苦しいママ友。そして、そんな一家のことを見聞きする中で、双子でありながら黒緒に叶わなかった白夜の劣等感などが蘇り……。この辺りは設定とか関係なく、普遍的にあるものだと思うし、それが上手くトリックの目隠しにもなっている、というのを読了後に感じた。
まあ、よくよく考えるとこのトリックについて、警察などがしっかりと検視などすれば、って気もしないでもないのだけど……それを言うのは野暮なのかな?
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