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特許破りの女王 弁理士・大鳳未来

著者:南原詠



特許権を盾に企業から巨額の賠償金をふんだくるパテント・トロールだった過去を持つ弁理士・大鳳未来。防衛専門の特許法律事務所を立ち上げた彼女のもとに届いたのは、映像技術の特許侵害を理由に活動休止を迫られている人気VTuber・天ノ川トリィを守ること。調査に乗り出した未来は、そこに様々な企業の思惑が重なっていることに気付き……
第20回『このミス』大賞・大賞受賞作。
うん、これは面白かった! 物語の流れは、冒頭に書いた通りなのだけど、事務所に警告文を送った企業は新興の測量技術の会社。しかし、その会社の特許は、測量技術の大手企業から特許のライセンスを受け取っていた。しかし、両社は子会社のような関係ではなく、むしろ敵対するような関係性を持つ会社。なぜ、そのような特許譲渡の流れができたのか? さらに、その要求は侵害による損害賠償というよりも、単にトリィをつぶそうとしているように思える。一体、その狙いは何なのか? さらに、トリィが使っている映像制作の道具はどこから手に入れたのか?
特許関連の法律用語とかはなかなか難しい部分が多いのだけど、最低限のことはわかるようにしっかりと説明されているし、そのうえで特許関連の法律には通じていても、VTuberとかについては全く詳しくない未来が、その世界の話とかに翻弄される、なんていう部分で身近さを感じられるし、上手く緩急に繋がっている。正直、未来じゃないけど「VTuberって、何でこんなわけわかんない名前なの?」とかは思うしなぁ……
ともかく、企業間の関係性はいったい何なのか? そういう数々の謎を追っていく中で、だんだんと情報が整理されて、やがて、その背景が見えていって……
この作品の場合、「防衛」が物語の主軸。そして、それは普通に裁判だ何だとやっていたのでは間に合わない。そこで、冒頭に書いた未来が、パテント・トロールであった、という設定が活きてくる。作中でも指摘されているのだけど、やり方としては「大博打」とか、「危ない橋を渡る」というレベルではないようなやり方。普通ならば、そんな無茶苦茶な、という感じになるのだけど、未来の過去があるからこそ、そんな無茶もあっておかしくない。そういうところもしっかりと計算されているなぁ、というのがよくわかる。
まあ、よくよく考えるとこの事件の黒幕ともいえる存在の行動にはいろいろとツッコミどころもあるのだけど、それも含めてエンタメ作品としての楽しさに特化させていると感じる。例えば、殺人事件の犯人を逮捕して、というような明確に終結とはしづらいと思うのだけど、この話の場合、読み終わっての爽快感がある。
専門的な題材を使いつつ、でもエンタメ作品としての楽しさをしっかりと持ち合わせた佳作だと思う。

No.6214

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Tag:小説感想『このミス』大賞南原詠

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