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ロング・アフタヌーン

著者:葉真中顕



コロナ禍に明け暮れた2020年の年末。編集者である葛城梨帆の元へ一本の原稿が届く。差出人は、まだ社に文芸編集部があった7年前、新人賞に応募され、最終選考にまで残ったものの、そこで酷評されて落選した女性・志村多恵のものだった。また、新作を書いたら……落選の際にそう伝えたものの依頼、音信不通。そんな原稿を読み進める梨帆だったが……
著者の作品って、どちらかと言うと現実の事件とか、そういうのを題材に、かなり分量の多い作品が多いのだけど、今回は290頁ほどと著者の作品としては短めな一冊。ただ、そこで描かれている内容はかなり重い。
梨帆の元に届いた原稿。自殺をしてしまおう、と思っていた主人公の私は、学生時代の同級生・亜里砂と再会する。そこから始まる内容は、半ば、多惠の私小説とも言える内容で……
物語のテーマとしては、女性の生き方、生きづらさ、みたいなものかな? 再開をした多惠と亜里砂。高校は同じであったが、地元の短大から地元企業へ就職し、現在は専業主婦の多惠。一方、東京の大学へ行き、そこからキャリアウーマンとして暮らしている亜里砂と、正反対な生活を送る二人。亜里砂は多惠との学生時代を懐かしむが、多惠にとっては嫌味にしか聞こえない。家事などは一切せず、しかし、横暴にふるまう夫。仲は良かったはずだが、病に倒れ、介護をする自分を「他人」として認識した義母。夫のようには……と大切に育てたはずの息子が起こしたこと。そんな状況の中で、絶望的な気持ちを抱えていた。その一方で、多惠が自分とは違う。見下して……と、劣等感を感じていた亜里砂は……。さらに、そんな物語を読む梨帆が思い出す、自分自身の抱えているもの……
女性は専業主婦として家庭に入るのが当たり前、なんていう言われ方をしていた時代というのは確かにある。それが崩れたとはいえ、まだまだそんな認識が残っている部分は間違いなくある。さらに、いくら嫁いだ先で頑張ろうと、結局は他人扱い、という苦しさ。そうならないように、と思っていた者の裏切り。さらに、現在であれば性犯罪と言えるような行為に、子供を産むかどうかという問題……。私は男だし、ついでに言えば独身で、100%理解できるか、といえば疑問だし、女性だけじゃないって想いを抱かないではない部分はある。でも、男であれば悩む必要のない部分があるのは確かだろう。そういうところの何分の一か、くらいは感じることはできたかな? そんな感じがする。
まぁ、作中の人物たちの状況はある意味、極端な例じゃないかとは思う。ただ、むしろ、ここまで極端じゃない方が、反対に苦しいんじゃないかとも思う。それを言い出すと、キリのない話になってきそうな気がするけど。
そして、そんな物語の結末。そんな苦しさから、物語が持つ力、というところへ結びつける結末も印象的。ノンフィクションのように実際の話ではない。だからこそ、作中で何でも出来る。そして、そんな物語に共感することが救いにもつながる。見方によっては投げっぱなしだけど、確かに、とかんじられた。

No.6216

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Tag:小説感想葉真中顕

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