著者:一色さゆり


狩野永徳の落款が記された屏風「四季花鳥図」。安土城に設置され、しかし、その落城と共に焼け落ちたとされるそれが、イギリスで発見された。しかし、その屏風は「春」が完全に欠落していた。所有者は、その修復を巡り、コンペを開催。スギモトと晴香は、そのコンペに参加することになるのだが、そこには春香の恩師・野上も参加していて……
シリーズ第3作となる長編。
今回は、広義のミステリという意味ではミステリなのだけど、犯罪とか、そういうものではなく、あくまでも失われた部分に何が描かれていたのか? というものを巡っての物語。まぁ、安土城にあったもの、というのは失われているはずなので(多分)、架空の屏風絵を巡っての物語ということになる。
ともかく、安土城にあった、とされる狩野永徳の屏風絵。その復元を依頼されるわけだが、まずはそれが本物なのか? そして、本物だとしたら……と資料を集めることに。そして、その中で、当時の手記などを探ることになるのだが……
まず、今回の物語で何よりも印象的だったのは、その手記などで描かれる狩野派の物語。その主人公となるのは、狩野山楽。近江・浅井家に使える武士の息子として生まれ、その絵の腕を秀吉に見出された(後の)山楽。下働きから、ひたすらに研鑽を積み、永徳の養子にまでなるが、狩野派はあくまでも血縁を中心とした一派。山楽は、あくまでも、永徳ほどの腕はない光信を支えよ……という立場で……
武家とか、そういうものであれば、血縁だからこそ、というのはわかるが、本人のセンスとか、そういうものが大きな意味を持つ芸術の世界。しかし、そこにも血縁でなければ、というものがある時代。自分こそが永徳の画風を最も引き継いでいる、という自負。だからこそ、光信に対しても苛立ちが……。そんな時代に、力はあっても血が……という山楽の苛立ちはわかるし、でも、それをただ引き継ぐだけでよいのか? という問いも出てくる。絵師の大家と言われる永徳。しかし、権力者に寵愛される、というのは言い換えれば、その好みに合致させる必要もある。それは、言い換えれば、権力者、時代が変われば簡単に切り捨てられる可能性もある、ということ。永徳の光信、山楽に対してかける想い……。当時の芸術家の立場とか、そういうものを考えさせられた。
で、その一方で、春香の、恩師の元へ帰るのか、それともスギモトと共に歩むのか? という問題。また、スギモトと父親の間の関係性。そういった部分にも物語の焦点があたっていく。
一応、広義のミステリという形ではあるのだけど、敢えてフィクションにしたことによって、戦国~江戸という時代にかけての芸術家はどういう存在なのか? そして、春香、スギモトという主人公の掘り下げをしっかりとすることが出来たのではないかと感じた。
No.6219

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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狩野永徳の落款が記された屏風「四季花鳥図」。安土城に設置され、しかし、その落城と共に焼け落ちたとされるそれが、イギリスで発見された。しかし、その屏風は「春」が完全に欠落していた。所有者は、その修復を巡り、コンペを開催。スギモトと晴香は、そのコンペに参加することになるのだが、そこには春香の恩師・野上も参加していて……
シリーズ第3作となる長編。
今回は、広義のミステリという意味ではミステリなのだけど、犯罪とか、そういうものではなく、あくまでも失われた部分に何が描かれていたのか? というものを巡っての物語。まぁ、安土城にあったもの、というのは失われているはずなので(多分)、架空の屏風絵を巡っての物語ということになる。
ともかく、安土城にあった、とされる狩野永徳の屏風絵。その復元を依頼されるわけだが、まずはそれが本物なのか? そして、本物だとしたら……と資料を集めることに。そして、その中で、当時の手記などを探ることになるのだが……
まず、今回の物語で何よりも印象的だったのは、その手記などで描かれる狩野派の物語。その主人公となるのは、狩野山楽。近江・浅井家に使える武士の息子として生まれ、その絵の腕を秀吉に見出された(後の)山楽。下働きから、ひたすらに研鑽を積み、永徳の養子にまでなるが、狩野派はあくまでも血縁を中心とした一派。山楽は、あくまでも、永徳ほどの腕はない光信を支えよ……という立場で……
武家とか、そういうものであれば、血縁だからこそ、というのはわかるが、本人のセンスとか、そういうものが大きな意味を持つ芸術の世界。しかし、そこにも血縁でなければ、というものがある時代。自分こそが永徳の画風を最も引き継いでいる、という自負。だからこそ、光信に対しても苛立ちが……。そんな時代に、力はあっても血が……という山楽の苛立ちはわかるし、でも、それをただ引き継ぐだけでよいのか? という問いも出てくる。絵師の大家と言われる永徳。しかし、権力者に寵愛される、というのは言い換えれば、その好みに合致させる必要もある。それは、言い換えれば、権力者、時代が変われば簡単に切り捨てられる可能性もある、ということ。永徳の光信、山楽に対してかける想い……。当時の芸術家の立場とか、そういうものを考えさせられた。
で、その一方で、春香の、恩師の元へ帰るのか、それともスギモトと共に歩むのか? という問題。また、スギモトと父親の間の関係性。そういった部分にも物語の焦点があたっていく。
一応、広義のミステリという形ではあるのだけど、敢えてフィクションにしたことによって、戦国~江戸という時代にかけての芸術家はどういう存在なのか? そして、春香、スギモトという主人公の掘り下げをしっかりとすることが出来たのではないかと感じた。
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