著者:斉藤詠一


昭和20年8月。ソ連による突然の侵攻が開始される中、満州鉄道は僅かな数の子供だけを乗せ、満州を出発した。それから18年。東京五輪を翌年に控える中、工夫として日々を過ごす耕平の前から、幼馴染の早紀子と志郎が失踪してしまう。そして、彼の元に「レーテー」という差出人から手紙が届く。一方、国鉄公安員の牧は日銀職員が転落死したという一報を耳にする。事故死と思われたが、その日銀職員の鞄が消えていることが気になる。元満鉄職員の自衛官・最上は、かつての同僚・石原から極秘の任務への協力を依頼される……
まず最初に言うと、これまでに自分が読んだ著者の作品の中で一番、好き。
冒頭の粗筋で分かるように、物語は3つのパートで展開する。
ネタバレってわけではないけれども、耕平は昭和20年に満鉄に乗り、ソ連の侵攻から難を逃れた少年の一人。そして、幼馴染の早紀子、志郎もまた同様。だからこそ、18年が経過した現在でも幼馴染としての交流を続けてきた。特に早紀子に対してはほのかな思いも抱いている。だが、その早紀子、そして、志郎が同時に失踪。しかも、早紀子が勤めていたキャバレーの常連が殺された疑いを持たれた状況で……。早紀子を探すため、レーテーの手紙に従って動き始める。
一方の牧は、日銀職員の死に疑問を抱く。その職員は、金の輸送を担当しており、その計画書が消えていた。しかも、彼が通い詰めていたキャバレーのホステス・早紀子が失踪したことで、彼女、さらに耕平に疑いを抱く。そして、最上に与えられた使命は……
早紀子は、現金強奪事件を狙っていたのか? そんな、まさか……。そんな耕平の思い。しかし、牧パートで描かれるように、その可能性も考えねばならない状況。耕平は、違うはずだ、という思いで早紀子を追うことになるが、実はその事件は……。そんな早紀子が何をしたのか? というところで引っ張りながら進んでいく物語の真相は……
それまでの体制などをすべて壊されることとなった第二次大戦。それだけならまだしも、多くの命が失われ、耕平らは故郷も、家族も失った。しかし、それから20年もたたない中、日本は五輪に浮かれている。まるで、戦争など忘れたかのように。そんな浮かれ切った中でも、開発のために犠牲になった存在もいて、さらに、そんな平和な雰囲気の裏では憲法で禁止されているはずの行為まで秘密裏に行われていて……。しかし、人々はそんなことを想像すらしようとはしない。
殺人事件と女性の失踪。そこから始まり、チラつく陰謀。その中でのアクション。そして、タイトルの意味へ、と常に飽きずに読ませ、最後もしっかりとまとめ上げられた佳作。
No.6273

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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昭和20年8月。ソ連による突然の侵攻が開始される中、満州鉄道は僅かな数の子供だけを乗せ、満州を出発した。それから18年。東京五輪を翌年に控える中、工夫として日々を過ごす耕平の前から、幼馴染の早紀子と志郎が失踪してしまう。そして、彼の元に「レーテー」という差出人から手紙が届く。一方、国鉄公安員の牧は日銀職員が転落死したという一報を耳にする。事故死と思われたが、その日銀職員の鞄が消えていることが気になる。元満鉄職員の自衛官・最上は、かつての同僚・石原から極秘の任務への協力を依頼される……
まず最初に言うと、これまでに自分が読んだ著者の作品の中で一番、好き。
冒頭の粗筋で分かるように、物語は3つのパートで展開する。
ネタバレってわけではないけれども、耕平は昭和20年に満鉄に乗り、ソ連の侵攻から難を逃れた少年の一人。そして、幼馴染の早紀子、志郎もまた同様。だからこそ、18年が経過した現在でも幼馴染としての交流を続けてきた。特に早紀子に対してはほのかな思いも抱いている。だが、その早紀子、そして、志郎が同時に失踪。しかも、早紀子が勤めていたキャバレーの常連が殺された疑いを持たれた状況で……。早紀子を探すため、レーテーの手紙に従って動き始める。
一方の牧は、日銀職員の死に疑問を抱く。その職員は、金の輸送を担当しており、その計画書が消えていた。しかも、彼が通い詰めていたキャバレーのホステス・早紀子が失踪したことで、彼女、さらに耕平に疑いを抱く。そして、最上に与えられた使命は……
早紀子は、現金強奪事件を狙っていたのか? そんな、まさか……。そんな耕平の思い。しかし、牧パートで描かれるように、その可能性も考えねばならない状況。耕平は、違うはずだ、という思いで早紀子を追うことになるが、実はその事件は……。そんな早紀子が何をしたのか? というところで引っ張りながら進んでいく物語の真相は……
それまでの体制などをすべて壊されることとなった第二次大戦。それだけならまだしも、多くの命が失われ、耕平らは故郷も、家族も失った。しかし、それから20年もたたない中、日本は五輪に浮かれている。まるで、戦争など忘れたかのように。そんな浮かれ切った中でも、開発のために犠牲になった存在もいて、さらに、そんな平和な雰囲気の裏では憲法で禁止されているはずの行為まで秘密裏に行われていて……。しかし、人々はそんなことを想像すらしようとはしない。
殺人事件と女性の失踪。そこから始まり、チラつく陰謀。その中でのアクション。そして、タイトルの意味へ、と常に飽きずに読ませ、最後もしっかりとまとめ上げられた佳作。
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